ニーダーさんはユーバリンゲンの駅まで,
車で迎えに来てくれました。
挨拶をするなり、
「お前は、台風がやってきた、
って連絡したまま、その後何の連絡もなかったな。」と言われ、
「ライアが出来上がるまで、連絡できなかった。」
「ところで、そちらからも、
荷物を送った、以外何の連絡もなかった。」
などのやり取りをしながら車に乗り込みました。
途中、ユーバリンゲンのケーキ屋さんに寄って、
シュバルツヴェルダーキルッシュトルテを買います。
ニーダーさんは、何かと理由を付けてはこのケーキを買いに行きます。
「日本の人たちをうらやましがらせたいので。」
と言って写真を撮らせてもらいます。

ニーダーさんのお家に着くと、
早速出来上がったライアを取り出します。
緊張の瞬間です。
ニーダーさんは、「フムフム。」と言いながらライアを眺めます。
そして、「デザイン的にこの部分が違う、
ここの面の取り方が違う。」と指摘してくれます。
なんとなく、気になっていたところを、やはり指摘されます。
そして「こうは言うが、最初のライアとしては驚くべき出来だ。」
と言ってくれます。
「それはうれしい。」
「でも、辛口の評価をお願いします。」
と伝えます。
お昼ご飯を頂きながら、いろんな話が始まります。
私はもちろん聞き役です。
ライア演奏者の事、
ライアという楽器の本質について、
アントロポゾフィーについて、
など、様々です。
そして、私の持ってきたライアを仕上げる段取りを組みます。
後6日間で仕上げなければいけません。
長いお昼ご飯が終わると、
早速持ってきたライアの磨きに入ります。
自宅で一回塗装したライアをサンドペーパーで磨いていきます。
サンドペーパーをかけたら、二回目の塗装です。
自宅ではただひたすら作業していましたが、
ここではなんだかスッキリしながらの作業です。
塗装が終わったら吊り下げて次の日にまた作業です。
側には、ペロルへ送られるソロソプラノライアが数台並んで、
削り出しを待っています。

作業が終わると、ニーダーさんの作業の見学です。
テーブルの上には枠まで仕上がった、
やはりペロルへ送られるライアが積み上げられてます。
ニーダーさんは注文を受けなくなって、
ひたすら当ペロルからの注文品を作っているようです。
有難いことです。

作業を見ながら、
「こんな風にやるんだ…」
「道理で、この作業は大変だったわけだ。」と伝えると、
「この作業をお前は何度も見ているはずだ。」
と言われます。
当たり前のことですが、実際に作りながら見るのと、
ただ見るのは全く違います。
あらためて、ニーダーさんの作業の細やかさ、正確さに驚きです。
ところどころで、
作業をしていてわからなかったところの質問をします。
こうやって見せてもらって、
おまけに説明までしてもらって、ありがたいことです。
2026年の夏にスイスのドルナッハで行われる
ライア100周年大会の話になります。
ライアを弾かれる知り合いの方からも、「私も行きます。」
と言っていただくことがあります。
ニーダーさんはその時に講演を頼まれているようで、
「ライアという楽器の本質を伝えるつもりだ。」と言って、
「お祭りにしたい。」
と言います。
私も行くつもりなので楽しみです。
そして、日本に行く話をします。
私の作るライアが出来たら、日本に工房の様子を見に来る、
という約束をしているからです。
ニーダーさんは若いころ、友達と二人で、
北海道から九州まで、50日ほどかけて旅行した経験があります。
「何か望みは?」
と訊くと、
「本物の茶道を体験したい。」
とのこと、
どなたかご存じないでしょうか?
「ライアについての話をしてほしい。」
と頼んでいますので、
ご興味のある皆さん、楽しみにしていてください。
夜は19:00ぐらいに寝ることにします。
日本時間では8時間加えるので午前3時です。
道理で眠たいはずです。
日本に戻った時にすぐに仕事ができるように、
なるべくこのペースを維持します。
朝は3:00に起きました。8時間寝てしまいました。
日本の時間で11:00です。
店からのメールなどをチェックし、
ライアのことなどを調べていると、
にわかに朝になってきます。
土曜日なので、9時の朝食です。
朝食時にひとしきり話をしたら(聴いたら)、
昨日のように塗装したライアにペーパーを当てます。
そしてまた塗装です。
塗装が終わったら、またニーダーさんの作業の見学です。
この作業をあと一日続け、ライアを磨き上げました。
「おっと!ラベルを張らなくっちゃね。」
と言って、事務室に入っていき、しばらくして戻ってきました。
なんと、ザーレムのラベルです。
そこには、ヨシヒロ イデ 手作り、No.1
と書いてあります。
「ワオー!」
テンション上がりまくりです。

いよいよ仕上げの作業です。
ブリッジの底を合わせ、
次にフレットのところの溝切です。
この作業はニーダーさんがやってくれました
後、細いピンの穴をあけ、
弦を巻くピンの穴をあけ、
ピンを打ち込み、ねじ込みました。

いよいよ、弦張りです。
ニーダーさんは、
「うん!弦の長さも正確だ、修正する必要がない。」
と言ってくれます。
「そうなんだ!」
と驚いている私です。
弦を張り終わり、調弦してニーダーさんに見せます。

いよいよ緊張の瞬間です。
ニーダーさんはライアを手に取ると、
おもむろに音を出します。
「なかなかいい音だ。」
「高音も素晴らしい。」
そういいながら、続けて曲を一曲弾いてくれます。

静けさの中に自分が作ったライアが世界に向かって産声を上げます。
空間に向かって深く明るい響きが広がります。
これまでの大変な日々が頭を駆け抜けていきます。
いつしか、目頭が熱くなっていました。
高校球児ってこんな感じなのでしょうか?
残念ながら、ザーレム工房のかんなくずを持って帰り忘れました。
「来年も来るぞ!」
「おう!」

2025/04/18 井手芳弘
第一号完成おめでとうございます!いつもドイツの雰囲気を味合わせて頂いております。ニーダーさんはどんな曲をお祝いに弾いてくださったのだろうと想像しております!嬉しい便りを楽しみにいたします。