「引き受けます。」と言ったものの、
やっぱり、やってみると大変です。
当たり前ですよね。
ライアのトップレベルのザーレムライアを作ろう、っていうのですからね。
でも、私にはこれまでザーレムで積み重ねてきた研修と、
クロッタ(1/2チェロのような楽器)を20台ほど作った経験と、
これまでたくさんの家具を作ってきた実績があります。

ザーレムからもらってきた材料はすでにつなぎ目の加工ができていましたので、
まず、それを繋ぐところから始めます。
何度もニーダー氏の作業を見てきたので、だいたいの手はずはついています。
ニーダー氏に感謝です。
写し取ってきたライアの原図に合わせながら、板を切り取っていきます。
次は薄い板を曲げる作業です。
割れないように用心しながら曲げていきます。
共鳴板の貼り付けも大変です。
半円形のところの張り合わせなど、0.1mmの精度を必要とします。
慎重に作業を進めていきます。
すべてが緊張の連続です。

何とか共鳴板の貼り付けまで終わりました。
「我ながら、天才的!」
と自分で自分をほめて、頑張ります。
次の作業は、最初に接着した、ピンを打ち込む部分の板とネックの加工です。
ザーレムライアを傍らに置いて、削っていきます。
ニーダー氏が淡々とこの作業をこなしていたのが思い出されます。
毎日作業が終わった後は、ボーッとします。
いわゆるランナーズハイです。
形が出来上がり、今度は磨き作業です。
入念に磨いていきます。
やっと、一回目の塗装に入りました。
これで、ザーレムにライアを持って行けます。

間に合うかどうか、わからなかったので、
まだ飛行機のチケットを取っていませんでした。
3日後のキャセイパシフィック航空の便が運よく取れました。
滞在日数は6日ほどしかありませんが、仕方ありません。
1回塗装したライアを持って、ザーレムへ向かいます。
香港経由でチューリッヒ空港に着くと、
列車でユーバーリンゲンの駅に向かいます。
何度も通っている道です。

駅に迎えに来てくれたニーダー氏の車に乗り、
途中でシュバルツヴェルダーキルシュトルテを買いに行きます。
黒い森のさくらんぼケーキという意味のケーキです。
何かあると、このケーキでお祝いです。

ザーレム工房に着くと、奥さんのエスタさんと、犬や猫たちに挨拶をし、
早速持ってきたライアをペーパーで磨き、2回目の塗装に入ります。
次の日はサンドペーパーで磨き、3回目の塗装です。
合間にニーダー氏の作業を見学します。
あらためて、その作業の細やかさ、正確さに驚きます。
「お前は良く見続けられるな~!」
「ほとんどの人はお前みたいに見続けることはできないよ!」
と言われます。
多分、褒められているのでしょう。

何度も塗装しては乾かして研磨する、を繰り返したあと、
仕上げに入ります。
これも、クロッタの塗装の経験が生かされています。
最後にピンを立てて、高さを合わせ、弦を張ります。
いよいよ調音です。
「出来たー!」
「完成!」

今までの苦労が報われた一瞬です。
まるで、甲子園で優勝した高校球児の気分です。
ジ~~ンと感動が染みわたってきます。
「出来たー!」
ニーダー氏のところに駆け込みます。
ニーダー氏は「フムフム」と言いながら眺めます。
そして奏でてみます。
まるで、入社試験です。
「最初のライアとしては驚くべき出来だ!」
「なかなかいい音だ」
「高音の音もコツコツという音がしないし素晴らしい!」
そういいながら、曲を弾いてくれます。
苦労して作ったライアが産声を上げた瞬間です。
深くて済んだ明るい響きが世界に向かって広がっていきます。
まるで、甲子園で優勝して、校歌の演奏を聴いている気分です。
思わず、目頭が熱くなります。
突然、ニーダー氏は思い立ったように、部屋を出ていきました。
しばらくたって、戻ってくると、手には小さなラベルを持っています。
そこには、
<ザーレムライア ヨシヒロ イデ 制作、No.1>

と書かれています。
それを丁寧にライアに貼ってくれました。
「やったー!」

次回は、「木が奏でる個性」ということで、
カエデ、トネリコ、サクラ、ニレ、
これから作るケヤキなどの木材が持つ個性と音色について、お話します。
2026/03/06 井手芳弘
