プラハで3回引っ張ったヨーロッパ研修は、
なんとザーレム研修を集中して1回で終わらせてしまいました。
季節は早、夏至を迎えています。
クロッタの完成まで待ってほしいと願った梅雨の到来を、
天気の天使さんにサービス過剰ぎみに、
なんと6月20頃まで待っていただきました。
こんなことは初めてのような気がします。
今回はザーレムでの塗装の学びの成果、
および、技術の向上により、
より素晴らしい仕上がりになりました。
* *
最近、ふと海岸に立ち寄りました。
私のライフワークにもなっている水の観察はこの海岸から始まりました。
自宅から福岡に向かう間に美しい砂浜があります。
鳴き砂の浜と言って、晴れた日に歩くと砂がキュッ、キュッと鳴くのです。
海岸がとてもきれいなこと、砂が花崗岩質のものであること、
などが砂の鳴く条件のようです。
それを示すかのように、そばに花崗岩の大きな岩があります。
川が流れ込んでいないのも、水がきれいな要因です。
それと、知る人ぞ知る、
<駐車場にある鳴き砂の浜の写真看板が裏返しに貼られていること>
でも有名な(?)海岸です。
普段は時間がなくて、
有料道路(今は無料になりました)の方を通るので立ち寄れなくて、
いつも時間に余裕を見て出発しようと考えながら、
なかなか実行できませんでした。
それでも、訪れるたびに新たな発見がありました。
それは、海が自分の秘密を、少しずつ、少しずつ語り始めたかのようでした。
最初の始まりは、こんな感じです。
「ところで、このまえ話してくれたことだけど、ここのところどんな感じ?」
「それはね。」と言って話し始めるのです。
そして、時として、「それからね、こんなこともあって、
あんなこともあるし…」とたくさん話してくれることがあります。
そんなこんなで、とても仲のいい友達になって、
ほとんどのことを知ってしまいました。
そして、もうほとんどこれ以上のことはないだろうと、
しばらく足が遠のいていました。
そして、久しぶりに立ち寄ってみました。
この季節は、とりわけ水が美しく感じられます。
もう何も新たなことは教えてくれないだろう、と思いながらも、
ひょっとすると、というかすかな期待も持ちながら…
* *
海は一番最初に訪れた時と同じような美しさでした。
最初に見せてくれた姿そのままに、私を出迎えてくれました。
「良かった。」
自分がその姿を感じることが出来て嬉しく思いました。
そこには、様々な現象が詰まっています。
水の持つ反射、透過、屈折、リズム、渦、流れ、力、
それらのものを、なんとも現象の中に余すところなく表現しています。
「反射とはね。屈折とはね。」と難しい話をするのではなく、
それを、現象として美しく表現してくれます。
反射や屈折って、こんなに美しく不思議なものなのだ、
と改めて感心してしまいます。
ずっと気に入ってたのは、波の下にできる光の筋です。
波が立ち上がるとその筋もはっきりし、波と共にやってきます。
それから、波が立ち上がるときに見える海の底です。
波が立ち上がることで、その波を通して底が透けて見えるのです。
おまけに、少し拡大されているようです。
そのうち、立ち上がる波がない水面の底に映る光の筋が気になり始めました。
反射による空の映り込みと
底から透けて見える光の筋の網の競演も何とも言えません。
光の網が一筋の光の筋に変わっていくところも見事です。
そうしていると、今度は海面全体の縞模様が気になり始めました。
小さい波だと思っていたら、実は底にできた砂の筋でした。
海の水が砂浜に打ち寄せることで、底に筋(波)を作っていたのです。
海の水は砂浜に打ち寄せる時に、空気との出会いの場所では波を作り、
砂との出会いでも波を作っていたのです。
それを見事に表現しています。
何食わぬ顔で。
海の水のすばらしさを伝えることは、私の表現力不足でとてもできません。
ただただ、見とれるばかりです。
このような不思議で美しいものが、私の体の中にあると考えると、
ますます不思議でたまらなくなります。
ふと不思議な物体に目が留まりました。
得体の知れないものが砂の上にあります。
オイルが固まったピッチのようでもあり、
海藻の塊のようでもあります。
靴で突っついてみました。
鮮やかな紫色が砂にしみこんでいます。
脚で転がしてみると、一回転ごとに鮮やかな紫色の斑点が砂につきました。
2019.06.21 井手芳弘