この日もそうでした。

久々の 好天に恵まれた午後の時間に車を走らせていて、
ふと道路端の標識に目が留まりました。
そこには< 鍋ヶ滝 2.8km> と書いてあります。
鍋ヶ滝 といえば滝の裏側に入れるということで有名な滝です。
夏場は人気で予約を入れないといけないほどだそうです。
「ちょっと寄ってみようか。」と車を左折しました。

細い道をしばらく走らせると、
右側に滝の第1駐車場がありました。
そこに車を止めて、入り口に向かいます。
案内板には 、
<礫岩の上に阿蘇の溶岩が乗り冷えて固まった後にその場所が滝になったため、
下地の柔らかい礫岩が削られて洞穴のようになった>
と書いてありました。

楽しみです。

時々 森の木々の間からお日様の光が筋になって
降りてきている写真を見ることがあります。
とっても綺麗です!
でも私が見てみたいのは
このように放射状に広がった光ではなく
1点に収束する光です。
木の上から光の筋が差し掛けられている方を見ると
写真に撮れるのではないかと思っています。
でもこれまで一度もそういう写真に出会ったことがありません。
それで、いつかそういう写真を撮りたいと思っています。

受付で「予約の方ですか?」と聞かれ。
「いや 予約はしていません。」と答えて 300円の入場料を払いました。
「 ここは5時で閉まりますので 10分前には戻ってきてください。 」と言われ、
プラスチックで作られた階段を降りて行きました。
いたるところにマムシ注意と書かれた看板が立っています。
確かにこういう水辺にはマムシは出ることが多いようです。
階段の側の地面には三つ葉が自生しています。
三つ葉もこういう湿った場所にはよく生えています。

しばらく階段を降りて行くと、滝に行き当たりました。
落差こそあまりありませんが、幅と水量があり、
水がカーテンのように広がって流れ落ちていて素敵です。
背後には大きな空洞ができていて、人がいるのが見えます。

見渡してみると、滝の周りには10人ほどの人たちがいます。
カップルか女の子のペアしかいません。
滝はデートスポットとして最適なのでしょう。
一人で来ているのは私だけです。

滝の裏側に入るためには
手前の石の上を渡って向こう岸に行かなければなりません。
向こう岸に着いて、滝の方に歩いて行きながら後ろ振り返ると、
なんと 滝のしぶきが霧のようになってたちこめています。
そして、木々の隙間から降り注いでくるお日様の光で
放射状の筋ができているではありませんか。
それはとっても幻想的で美しい景色です。
デートスポットになるはずです。
「いや待てよ、この現象はいつも起きているわけではないし…」
ブツブツ言いながら、写真を撮ります。

滝の左側に目をやると、水滴になって降りてくる一筋の流れがあります。
水滴がお日様の光を受けてキラキラといろんな色に輝いています。
とってもスイテキです。
デートスポットになるはずです。
「いや待てよ、この現象はいつも起きているわけではないし…」
「それに、カップルたちは誰一人としてこの現象に興味を持っていないし…」
滝を背景に写真を撮っているカップルの邪魔しないように気を付けます。

さらに、目をその左側にやると、
なんと ぼんやりと 虹ができているではありませんか!
虹の専門家と自称する私は、
自分の位置をどこに持ってくれば虹がより綺麗に見えるか分かっています。
そこで 、河原に降りて、
その虹が、よりはっきりと見えるようにします。
そして写真を撮り始めます。
カメラを持ってこなかったのでスマホでとるしかありません。
背後の空洞の暗がりの手前で、虹が不安定に揺らめいています。
とてもとても幻想的です。
「……」

一組のカップルの男性の方が
「あっ、虹が出来てる!」
と、気が付いたようです。
でも、そのまま通り過ぎていきました。

写真を撮りながら、虹に筋が付いているのを見つけました。
そこでまた写真を撮ります。
ついでに動画も撮ってみます。
動画で取ってみると、よりはっきりとします。

しばらくその現象を観察した後、滝の裏側に入ってみます。
みんなと同じように 滝の後ろから向こうの景色を撮ってみます。
奥の壁は、小さな砂利の間に石ころが挟まったようにしています。
結構もろそうです。
天井から石が落ちてこないか、確認します。
天井は、溶岩の部分なのか、平坦な岩です。
少し安心です。

滝の裏側から水のカーテンを通して向こうの風景や人々が見えます。
滝の中に秘密基地や秘密の隠れ家がある映画か何かを昔見たことがあります。
「滝の中の秘密基地から見るとこんなに見えるんだ。」と納得です。
結構水量がないと、秘密基地がばれてしまうことに、気が付きました。
(秘密基地を作るときの参考にします)

滝から戻る道すがら、
相変わらず光の筋が木々の間から放射状に降り注いでいます。
「光の筋が集まるところが撮れないだろうか?」
岩の上で自撮りしている子たちが降りるのを待って、
その上に立ってみます。
残念ながら、その現象を見ることはできません。

そして 、はたと気がつきました。
「先ほど撮った筋がついた 虹は、
実は光の筋を光の方から光が当たる方に向かって撮ってたんだ!!」
「なんてことだ、虹のおまけがついていたなんて!」
「誰がそんなことを想像しようか!」

自分が虹だと思って見ていたものは、
実は光の筋が集まった場所だったのです。
そして、虹にできていた筋はその光の筋が集まったところだったのです。
「そうなんだ こんなふうに見えるんだ。」
想像していたものとは全く違うものがそこに現れていました。

それから、 自分のすぐそばでできる虹も取ってみました。
滝の霧でできる虹を見ていると
虹が本当に立体的だということを感じさせてくれます。

ふと気が付くと、閉門の時間が近くなっています。
先ほどいた人たりちは皆いなくなっていました。
驚きが冷めやらない中、
戻ろうと川を渡りながら滝のところに目をやった時です。
滝のところに不思議な虹が現れています。
明るい虹の塊が、
滝壺の水面から滝の途中かけて生き物のようにうごめいています。

この世の物とは思えない眺めです。
素晴らしい現象を見せてくれて、
公然たる秘密を打ち明けてくれた後に、更にアンコールです。
あまりのすごさにふらふらになりながら、階段を上っていきました。

そして、このような現象を見せてくれた場所と天気に
心から感謝しながらその場所を後にしました。

不思議なことは予期せず突然にやってきます。
何でもないと思っていたところに恵みのように突然やってきます。
ただただその出会いに感謝するばかりです。

「これで300円、安すぎ!」

2025/06/06 井手芳弘

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