やっと、夏の研修も終わりを迎えます。新潟を出てから三日間の出来事とは思えないような引っ張り様です。夏の東北三日間ツアーでも、とても回れない動きだと、われながら自負しています。
青森をでて一路むつ市へ向かいます。なんと、恐山は最北の地に存在しています。
むつ市といえば、私たちの年代の人々の記憶に残っているのは原子力船『むつ』です。
そして、むつ市の近くが核廃棄物の最終処分場になっている、という話です。その後、どうなったか覚えていません。
それはともかく、今回の研修の目的である、<結界を超えて異界の文化の存在を確かめる>のにあと少しです。
恐山、そのインパクトのあるネーミング。
岩の隙間から硫黄ガスが噴き出し、岩の影々には、呪文を唱えながら、人々の魂を降ろしてくる人たちが腰を下ろしている。一体その人たちが、どこで寝泊まりしているかさえ分からない。沖縄のユタとともに、現代に残された非日常。
むつ駅に着くと、レンタカーを借り、荷物を宿に置くと、さっそく恐山に向かいました。
いよいよ恐山の門にたどり着きました。
どんな世界が待ち受けているのか、ワクワクしながら山道を進みます。
突然、視界が開けました。
左手には、広大な湖、それを取り囲む山々。道路を挟んで右側の山からは硫黄を含んだ川が流れ込んできます。昨日訪れた青池とはまた違った美しさです。硫黄を含んでいるからかもしれません。
そこに、三途の川という看板がありました。横には太鼓橋がかかっています。通ってはいけないようです。その橋の下から湖を撮ってみます。
何やら、2列の木の杭が湖の中に向かっていき、途中でなくなっています。何かの儀式に使うものでしょうか?
広い駐車場にたどり着きました。思いのほかメジャーです。そこには大きなお寺が立っていて、左側の岩の方からはガスが噴き出しています。不思議なオープンな雰囲気を持った場所です。木が生えてなく、がらーんとしているからでしょうか?
入場料(?)を払って、中に入ります。本堂に向かう道すがら、うわさに聞いた温泉があります。さっそく覗いてみます。なかなかよさそうです。入場料の中に入湯料も入っています。
タオルと着替えを忘れてきたことに気が付きました。「荷物を宿に置いてこなければよかった。」
お守りを販売されているおばさんに、「イタコさんってどこにおられるのでしょうね?」と聞いてみました。すると、「たしか、今日はこられてないね。」「休みの日にはこられて、この集会所の中でお通し(?)をされますよ。」「その時には人が並ばれます。」との話でした。
そうなんだ、イタコさんは休みの日だけどこからか来られるんだ。ここのお寺に所属されている方ではなさそうです。
余りに、下調べ無さすぎです。後で調べてみると、昔からこの場所にイタコさんたちがいたのではなく、イタコの文化を持った東北の各地、いやもっと広い範囲からこの地にいつからともなく、集まり始めたとのことで、高度成長期には一番栄えたそうです。これまでの文化が消えていく中で、人々の心が欲していたのかもしれない、とも書いてありました。
いまでは、祭りの時に数人のイタコさんが来られるそうです。
お寺の敷地からつながる岩ごつごつの賽の河原に向かいます。
至る所で硫黄ガスが噴き出しています。そこに備えられた、硬貨がすべて、どす黒く変色しています。時折地蔵さまたちが置いてあり、そこにはカラフルな風車がたくさん回っています。
荒地は湖へと続き平坦になっていきます。静かな岸辺から湖をのぞき込むと鮮やかな黄色の色が透けて見えます。湖の底から噴き出してきた硫黄が溜まったもののようです。
それにしても、広大な敷地です。その先には山々がそびえています。最初に山の中をかき分けてこの湖に行き当たった人はさぞかし驚いたことだろうと思います。冬は、山々は真っ白になり、この湖も凍るのだろうか?今の景観からは想像できません。至る所に一円玉や五円玉、十円玉がちりばめられています。湖の中にも、お金が透けて見えます。
帰り道、温泉のご利益にあずかりました。やっと、旅の目的を達成しました。
しみじみと硫黄臭の強いお風呂に浸かっていると、窓を開けて覗く人がいます。
受付の人に、「ところであの湖の杭はどういう目的に使われたのですか?」と聞くと、「ああ、あれはね、以前湖の落差を利用して発電してたんだけど、水量が減って、止めてしまったんだよ。」「?!?!」「想像だにしない、答えでした。」「聞いてみるものです。」「夢は破れましたけど…」「事実を知る必要はあります。」
異界はどこかの場所じゃなく、人々の生活の中にあるのだろうな。と自分でもわけのわからないことを考えて恐山を後にしました。
旅の目的を達成した安ど感とともに、六ケ所村の原燃へと向かいました。
センターの窓からは、数限りない風力発電のプロペラが整列しているのが見えました。何とも不思議な光景です。
日本を代表する霊山である恐山、原子力の施設、ほとんど車が走らない国道と延々と続く荒野。
不思議な場所かもしれません。
2017.12.01 井手芳弘