第77回 トロイの木馬を求めて

 

そう、ことの始まりは教室での会話でした。

「最近、音の出るオブジェを集めた博物館のようなものが作りたいんです。」と話をしたときに、

「その話を聞くと、小鹿田(おんだ)の水車を思い浮かべます。

大きな獅子脅しのようなもので、小さな集落にこの音がなんともいえない感じで響いていて、

とても癒される感じです。一日聞いていたい感じです。」

それも、一人ではなく、二人の人が、

みんなで6人ほどだったので確率は33%何と三人に一人の人が知っている、

これは博物館作りに当たってはぜひ見とかないと・・・という訳で、

忙しいさなか、小鹿田の水車を求めて出発することになりました。

場所も、小石原焼きの産地の奥のほうで、

昔から細々と焼き物作りをしているとのこと、ますます行きたい気持ちにそそられました。

道草は世の常、人の常(だっけ?)目的地に向かっての途中の道草はとっても楽しいものです。

ずっと気になっていながら、たいしたことないかな、と行く機会のなかった朝倉の三連水車に立ち寄りました。

水車の前に立って眺めること1時間、自分が水車を作るつもりで眺めてみると、

その構造のすばらしさの一つ一つが語りかけてきます。

それまで、漠然と水車のイメージを持っていて、たかが水車と考えていましたが、

水車を回すために一定の水量を確保する堰を始め、

これほどまでにいろんな英知が含まれていることに驚いてしまいました。

ちなみに、そこでくみ上げられた水は地面の下を通り、

100mほど離れたそこより高い土地から噴き出していました。

今でも一日8000tもの水を13.5haの田んぼに水を供給している現役のものでした。

単なる観光用のものだと思っていたわたしとしてはとても大きな収穫でした。

その後、近くのハチミツ屋さんで20種類ほどのハチミツの試食(試舐め?)をしてしまい

とても満足な中、目的地へ向かうことになりました。

 

途中、コンビニに寄って、ふと道路の向かい側を眺めると、はたまた、奇怪な建物が目の前に。

小さな学校のような古い建物の周りにビッシリと隙間なくアングラ系のイラストが描かれています。

やっぱり気になって、見学することにしました。

ごめんください・・・といって中に入っていくと・・・、男の人が出迎えてくれました。

「何の建物か知りたくて・・・」と恐る恐るたずねると「そんな方がよくこられます。」とのこと。

ついつい、誘いに乗って、上がり込んでお話を伺ううち、

そこが子ども劇場の本部であるということが判明して、

ずっと高まってきた?????がすっと引いていき、すっきりとしました。

「小鹿田に行こうとしているんですよ。どう行ったらいいかご存知ですか?」と一応聞いてみると、

「それだったら,ここから上がって小石原の方へ行くのではなくて、

日田の方から登るんですよ。」と教えていただきました。

地図も見ないで漠然と来たわたしは始めて地図を見て<おんだ>が小鹿田とかくことを知りました。

よかったよかった、まるでおとぎ話のようです。

途中で不思議なものに出会い、そのものに行く先を教えてもらうという筋書きです。

一度、オランダで失敗していだけに、今回はうまく行ってよかったです。

 

 

途中、二つ目の水車に出会いました。

これも、まだ実際に米をついているそうです。

葺きかえられたばっかりの萱ぶきの屋根がとっても素敵でした。

家作りのこともあるので、どうやって屋根を葺いているか、しっかり観察をしました。

木の軸のところにたっぷりと盛られたグリース、

それに歯車を合わせるために欠き取られた歯が実際の使用を物語っていました。

 

小雨交じりの中やっとたどり着いた小鹿田。

集落の手前の駐車場に車を止めると、

どこからともなく「ギー、イーーーー・ズドドン。」「ギー、イーーーー・ズドドン。」

祇園の山笠の山車の車輪のきしむ音を思わせる、木の擦れ合う音、

それに地響きを立てて巨木が倒れ落ちる音がしてきます。

 

 

「こ・これだ!」今まで聞いたことのない音の主を求めてたどり着くと、

それは5mはゆうにある大きな木馬の頭のようなものが三つ四つ、ギー、イーーーーと頭をもたげては

その巨体を投げ出すように頭を地面にたたきつけています。

それは、恐ろしいばかりの迫力です。

あまりの大きさに、神々しささえ覚えます。

そう、それはまさにトロイの木馬が仕事を終わって

第二の人生を小鹿田で過ごしているイメージさえ浮かんできます。

いったい、なぜに、こんな山奥に、だれが、こんなものを、と思ってしまいます。

どうやって、音のオブジェ博物館にこの木馬を飼おうか、

やっぱり真ん中にやぐらを組んで周りを注連縄で張り巡らして・・・。

金属を使った音のオブジェしか考えていなかったわたしは、

あまりもの迫力の木のオブジェをどう扱ったらいいか分からず、呆然としてしまいます。

雨はそんな私にはお構いなくしずしずと降り続いていました。

 

2007.07.06.

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