何度となく目が開き、朝早く目が覚めました。
とりあえず出発の準備を済ませると、
早速レストランの偵察(?)です。
やはり閉まっています。
窓越しに自分が座っているところあたりを眺めてみたりします。
かなりの不審者です。
それから、フラフラと道を歩いていくと、
お城に行く坂道に行き当たりました。
途中の家もお城の偉い方たちが住んでいたのでしょう。
入口の門は、二段になっています。
坂を上っていて面白いことに気が付きました。
道は石畳ですが、石を扇形のように敷いてあります。
ちょうど、水が平らな浅い面を流れていくときの模様のようです。
その丸い面が坂道では登る方に向かって続き、
家の前に来ると、家に入っていくように続いています。
きちんと流れが意識されているのだと感心しました。
坂を上るとお城です。
丘の上にあるので
ウィーンの郊外のお城ほど広大ではありませんでしたが、
それでもお城の中の敷地は広大です。
お城の門の入口にマシンガンを持った人たちが警備しています。
お城を撮るふりをして、その人たちを撮ってみたりました。
すごいな、とても中には入れないんだな、
と思いながら歩いていくと
先に、空港の搭乗チェックゲートのようなところがあり、
お巡りさんたちが何人かいます。
朝早いので、お城の中に入ろうとする私一人を
数人がかりでチェックしてくれます。
後の時間になると、たくさんの人が並ぶのでしょう。
めでたく中に入ると、石畳が広がり、車が走っていたりします。
真ん中には、下からもよく見えた大きな黒っぽい教会が立っています。
たぶん、建物の石は砂岩だと思います。
まるで、お城の中に迷い込んだようです(実際そうなのですが)。
メルヘンに出てくる中庭のようで、
王子様たちがそこで泣いていたり、
カエルがぴょんぴょんと跳ねていたり(カエルの王子様)、
馬車がカツカツと蹄の音を響かせていたりと想像が膨らみます。
ここでは様々なことがあったのでしょう。
入ったところとは別の出口から出て、心地よい坂道を降りていきます。
良い天気で、良い眺めです。しばし、危機を忘れます。
ホテルについて、隣の管理のおばさんにパソコンを忘れた話をし、
「バスに間に合わないかもしれない。
その場合、もう一泊できますか?」
と訊きました。
「明日は残念ながら部屋は詰まっている。」と言って、
近くのほかのホテルを探してくれたり、
忘れたレストランに行ってくれたり、
隣のレストランに話をしてくれたりと、とても親切です。
私にはまったくわからない会話で話が進んでいくのが不思議です。
おばさんのおかげで、
レストランが11時開店だということが分かりました。
バスの出発は10時15分です。
9時30分ごろには準備で人が来るだろうから間に合うだろう、
と考え、一人でレストランの前で待つことにしました。
すると中に掃除をする女性がいます。
窓を叩くと気が付いてくれて、
ジェスチャーで<中にパソコンを忘れたのだ>、と表現します。
<私にはわからないし、どうすることもできない>、
とジェスチャーで返ってきます。
言葉より、よっぽど通じます。
どうしようもなく、そこで待つことにします。
時間は10時に近づいています。
向かいの道路にタクシーが止まっています。
どうしてこんなところにタクシーが止まっているんだろう?
と不思議です。
かすかに、小人さんの匂いがします。
目の前に、おじさんが車を止めました。
「あなたはここの人ですか?」
とジェスチャーを交えながら訊きましたが、
「違う」という答えです。
がっかりです。
もうバスの出発まで15分ほどしかありません。
ほぼ、諦めムードで、ただ待っていると、
そのおじさんがなんと、
パソコンを持ってくるではありませんか。
「ありがとう!」と言うと、
急いで小人さん、いや、
タクシーの運転手のところに走り寄ります。
「駅まで何分か?」と聞くと、
「10~15分ぐらいだね。」との答え。
「バスは10時15分発だ、
今から近くのホテルで荷物を取ってから駅に走るけどいいか?」
というと、「OK」の返事。
タクシーに飛び乗り、早速、ホテルに駆け込み、
荷物を取り出しながら、おばさんに挨拶して、
またタクシーに飛び乗ります。
タクシーの中で、運転手と予行演習です。
「オレが(どういうわけかオレになっている)
荷物を載せたまま飛び降り、
バスに走り寄り、
「オレはこのバスに乗んだ!」と言ってバスを引き留める。
そして、戻ってきてお金を払い、
荷物を取るから。
「よし、わかった。」
「ところで、カードは使える?」
「カードでは払えない。」
「クローネ(チェコの通貨)でないと。」
「クローネ足りない。」
「ユーロでもいい。」
「ユーロだったらいくらだ?」
「10ユーロだね。」
「よしOKだ」
予行演習終了。
計画は完璧です。
駅に2分前に着くと、そこに停まっているバスに、
「行き先がミュンヘンと書いてあるが、
これはDBバスか?」と訊きます。
「DBじゃない。」
「じゃー、DBバスはどこから出発する?」
「そんなのしらないよ。」
何車線もある道路のはるか向こう側に
一台のバスが止まっています。
中央分離帯があり、
しばらく向こうへ渡る道もありません。
タクシーに駆け寄ると、
「向こう側かもしれない。」
「向こうに渡ってくれ。」と、
ほぼ絶望的になりながら言うと、
「分かった。」といって、
その道路の下をくぐる近道を走り、向こう側へ。
思ったよりかなり早く着き、車を止めると、
私はバスへ駆け寄り
「これはミュンヘン行きのDBバスか?」と訊きます。
「そうだ。」との答え。
「オレはこれに乗るんだ!」
「タクシーから荷物を持ってくるから待っててくれ。」
そう言うと、タクシーに駆け戻り、
トランクから荷物を下ろし、
途中で「カードでも払えるよ。」
と言って清算し始めていた小人さんに10ユーロ札を渡すと、
カードを受け取りました。
「ありがとう。」と言って、
財布の中のクローネの小銭をすべて小人さん
に手渡すと、バスに乗りました。
バスは私のせいで、数分遅れで出発。
バスはガラガラで、座席を倒し、
プラハの街並みを眺めながら、
私は深い眠りに落ちました。
それにしても、
どうしてあんなお客もいない所で、
やることもなく、
タクシーが長いこと停まっていたのかが不思議です。
やはり小人さんだったのでしょう。
4時間の道のりをほとんど寝て過ごし、
ミュンヘン駅のそばのバスセンターで、
フレックスバスというバスに乗り
換えて、ボーデン湖のほうに向かいます。
このバスは、ほぼ満席です。
座席指定を持っている人と持っていない人が混在して、
どこからどこまでの区間が指定なのか、指定じゃないのか、
さっぱりわかりません。
指定を持っていない人は、
いつ座席を干されるか、と不安顔に見えます。
前のバスでよく寝たせいか、
人がいっぱい入れ替わり立ち代わり乗り降りするせいか、
私は起きたままで周りを眺めるばかりです。
不思議なトイレのマーク(さかさま)が赤く輝いていました。
2019.5.17 井手芳弘