「天体って嫌いだよね。」
「だって、わけわかんないもん。」
「あんなこと勉強して、
何の役に立つのかなって思う。」

「そっか…」

「でも、宇宙で起きていることが
分かるっていいんじゃない?」

「心も広くなるし。」

「…」

「心が広くなる?」
「わけわかんない問題出されて、
頭の中は暗黒星雲」

「知ってるじゃん!暗黒星雲」

「で、そのわけのわかんない
問題って?」

「金星がどこにあったら
明けの明星になって、
どこにあったら
宵の明星になるかって問題!」

「太陽と金星と地球の図が
描かれていて、
AとBとCのどの位置に金星が
あったら明けの明星になるかって。」

「そんなことどうでもよくない?」

「点数付けたい先生が無理やり
考えたひねた問題だと思う。」

「そうね、自分もその問題を
頑張って解いて○もらったけど、
引っかかっていた。」

「でも、長い天動地動説の
天体修行のおかげで、
その問題をわかりやすく解ける
かもしれない。」

「それはね…」
 

「金星の動きの端から端は
地球から見て、
大体90度ぐらいの範囲なんだ。

ということは、自分の場所から
太陽を中心にした金星の
動きの幅は、やはり90度ぐらいに
見える。

金星は自分から見て
太陽を中心にして右に45度
左に45度の範囲の中を移動して
いることになる。

金星がAの位置にあるときは、
実際は空ではどう見えるかというと
太陽の左45度の位置にある。

そうすると、太陽が弧を描いて空を
東から西へと一日に移動するとき、
金星も円盤の左側にありながら
ついてくる。

そうすると、金星は太陽より後に
東の空に出てくるから、
空は明るくて金星は見えない。

ところが空をその円盤が駆けめぐり
太陽が西の空に沈むときには、
金星はその左上にあるから、
夕暮れの空で輝く。
つまり宵の明星になるってわけ。」

「どう?この説明?」

「いつも太陽だけ見ているけれど、
その周りに見えない惑星も一緒に
想像して考えるってこと。」

「次にCの位置に来たときは、
金星は太陽の右側だから、
太陽より早く出る。
ということは、
明けの明星になるってわけ。」

「う~ん、難しいけど少しわかる気
がする。」

「珍しく、さえてる気がする。」

「……」

「この考え方の良いところは、
自分の見ている空に、
実際に太陽系を想像できること。」

「そして、宇宙船地球号に
自分が乗っている実感を持てる、
ってこと。」

「宇宙に飛び出して、惑星の間を
駆け巡るんだ!」
「何て素敵なんだろう~!」

「……」

「やっぱり、さっきの言葉、
取り消そう。」

2021/5/21 井手芳弘

つれづれ411 宵の明星、明けの明星」への2件のフィードバック

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