おとぎ話などでよく小人さんが出てきます。
子どもたちは、小さい頃は小人さんを信じていますが、大きくなると
「小人さんなんていないんだ!」
「そんなものは作り話だ!」
と言い出します。

でも大人は、すでに小人さんの存在を信じていないので、答えに困ります。
「子どもには夢を持ってもらいたい。」
でも…どうやって?
「そうね、でもどこかにいるかもよ?」
と力のない返事をして、自分もごまかしてしまいます。
信じていないから仕方がありません。

わたしは、実は、小人さんにあったことがあります。
それも、一度ならず、何度でも。

ついこの間も出会いました。

だいたい出会う小人さんはいい小人さんです。
多分、私がのろまだけど善良な王子だからでしょう

小人さんの存在を明らかにしてくれたのは、グリムのメルヘンの中の
『命の泉』というお話の中に出てくる小人さんでした。
*      *
ある国の王様が重い病気にかかり、
もう助からないと医者から言われました。
三人の王子たちは、悲しみに泣き崩れていると、
お城の外を老人が通りかかり、訳を訊ねました。
話を聞いた老人は、ずっと先にある命の泉をさがしに行けばいい、と言います。

賢い一番上の王子さまは、王様が止めるも聞かず、馬に乗って探しに行きます。
途中岩の上に座っている小人にであいました。
「王子さま、王子さま、どちらへ?」
と小人が訊くと、
「お前みたいなチビ助の知ったこっちゃない。」
と王子様は答えて、通り過ぎていきました。
小人は王子様に呪いをかけ、
王子様は先にも戻ることもできない狭い岩の道に挟まれてしまいました。

二人目の賢い王子様も小人に、
「お前みたいなチビ助の知ったことだじゃい。」と言うと、
やはり岩の間に挟まってしまいました。

三番目ののろまな、でも気の優しい王子様は
「王子様王子様どこへお出かけで?」
と小人から尋ねられたときに、
「おう、これは小人さん、私は命の泉の水を汲みに行くところです。」
と答えると、
「お前はいいやつだ。」
と言って、そこまでの行き方と注意点、
それにそのための道具をくれました。
*     *
そう、小人さんはぞんざいに扱ってはいけません。
だいたい、歩いていると目立たないところに立っています。

小人さんの存在に最初に気が付いたのは、外国の空港のことでした。
ビニールの小袋を売っている小人さんが話しかけてきたのを
私は話も聞かずに断ってしまいました。

でも、その後そのビニールがないせいで、
機内に持ち込めないものを廃棄しなければなりませんでした。
小人さんをぞんざいに扱った罰が当たったのです。

それから、小人さんにはきちんと対応しようと心に決めました。
それからどれだけの小人さんに出会ってきたことでしょう。

らせん教室で時々自然観察会をしますが、
観察会の最後にはいつも小人さんが現れるという伝説があります。
観察会を振り返るときに、必ずと言っていいほど小人さんの話題になります。

ある時、福岡の太宰府にある鬼滅の刃で有名な竈門神社(かまどじんじゃ)で観察会を行ないました。

終わりに皆さんと食事をしながら、
「今日は小人さん現れなかったね。」
「そんなこともあるんだ。」
と話をしました。
ところが、その後最大級の小人さんと遭遇することになったのです。

お蕎麦屋さんの勧めで(実はこの人は小小人さんだったかも)
近くのおうちの庭に来るアサギマダラという蝶を見に行ったところ、
なんと、お家から大小人さんが出てこられたのです。

大小人さんは詳しくアサギマダラの説明をしてくれました。
さらにお家に入れてくれて、
アサギマダラの写真や盆栽などを見せてくれて、たくさんお話をしてくれました。

つい最近は、八王子駅で列車を待っている時のことでした。

他に誰もいないホームに、
ほかの人のゆうに倍はあるふくよかな姿をした駅員の小人さんが
ぶつぶつと独り言を言っていました。

ちょっと気味が悪かったのですが…
(小人さんごめんなさい)
話しかけてみました。

「今度来る列車、特急券いらないんですよね?」
(特急券の自販機がすぐそばにあり、
特急券はいらないと思っていたのですが、
一応聞いてみました。)
「特急券はいらないよ~~!」
と答えてくれました。

しばらくして、
「この特急は長津田には止まるんですよね?」
と訊いてみました。
(止まることは知っていたのですが…)

すると、

「長津田には止まらないよ~~!」
と意外な答え!

「これ、東京行きだから~~」
「長津田はあっちのホーム~~!」
と、巨体をゆすりながら指さしてくれました。

私は自分が勘違いをしていたことに気が付き、
向こう側のホームに急ぎました。

「えっ?」
「本当の小人のお話だと思ったら、なーんだおじさんじゃん。」

「いえいえ、正真正銘の小人さんたちです。」

『子どもの遊びと手仕事』という本に先生と子どもの会話が出てきます。
*      *
あるクリスマス前のこと、幼稚園の部屋の中に飾られた人形が毎日少しずつ動いています。

ある年長の女の子が、
「ねえ先生、あれはほんとうに小人さんがやってるの?」と訊きました。
先生は、「そうね。」と答えました。
次の日も、次の日も女の子は真剣なまなざしで訊いてきました。

先生は、<この子は本当のことを知りたがっている。きちんと答えなくては。>と感じて、こう答えました。

「実はこれは先生が動かしてるの。」「でもいいこと。」
「大人はだれでも小人さんになることができるのよ。」
「このことは、二人だけの内緒よ。」

女の子はとても満足した顔をして戻っていきました。
*      *
そうなんです。
人には小人さんが乗り移れるのです!

いたるところにおじさんに(時としておばさんに)乗り移った小人さんがたたずんでいます。

決しておろそかにしないようにしましょう。

2023/3/3 井手芳弘

つれづれ 454 小人さん伝説」への2件のフィードバック

  1. 小人さんのエピソードがいっぱいで、面白かったです。小さな出会いを大事にしないとですね。

    1. 加世田成美様
      コメントありがとうございます。
      文章、喜んでいただけてうれしいです。
      小人さんに支えられています。

      ペロル

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