ペロルのHPでもお知らせしましたが、
ザーレムライアの受注生産を
来年の1月末で取りやめることになりました。

とても良い楽器が制作されなくなるのは大変残念なことですが
制作者のニーダー氏の気持ちを大切に
これからのニーダー氏を応援していきたいと思います。

この前、ニーダー氏を訪ねたときに
「ライアの注文を受けるのをすべてやめようと思う」
と言われました。
「年も取ってきたので、他のことに時間を使いたい。」
「音や響きについての研究を進めていきたい。」
「たくさんの孫たちと関わって、道化の劇をやりたい。」
これまでも、やりたいことをいろいろと聞いていたので
ニーダー氏の判断を応援したいという気持ちになりました。

思えば、ニーダー氏と知り合って22年がたちました。

最初の出会いは、音楽鍛冶屋のマンフレッド・ブレフェルト氏の紹介でした。
彼のもとで楽器を作る体験をしている時に、
「自分の知り合いにライア制作者がいるけれども、会ってみないか?」
と紹介されました。
当時、ザーレムライアの存在を知らずに、
「とりあえず、会ってみよう。」
ということから始まりました。

ニーダー氏の話を聞いて
「何か手伝いができれば」
という気持ちから始まったかかわりが
まさかこれほどのつながりになるとは思いもしませんでした。

そして、たくさんのザーレムライアを皆様にお届けすることができました。

その間、多くのことを教えてもらいました。
ライアを作る木をどのように切って乾燥させるか
深くて、均質な響きをもたらすために、どのような構造にしていくか
弦を自作していく中での様々なこと、など
それまで、ただ、単純に板を張り合わせて作るだけ
と思っていた私は
毎回ザーレムを訪れるたびに
新たなことを教えてもらいました。
そして、この楽器の奥の深さに興味も深まっていきました。

それだけでなく
「どのような姿勢でライア作りに向かうべきか?」
や「ライアとはどのような楽器であるか?」
など精神的な面も学びました。

今でも薄暗くなった工房の中で
ニーダー氏がキンダーハープの仕上げ作業をしていた時のこと
キンダーハープの底の部分に彫刻刀で、ザーレム、と彫りながら
「このザーレムという意味を知っているか?」
「自由という意味なんだ。」
と言われたことを、今でもはっきりと覚えています。

もちろん、学んだことはライアについてだけではありません。
ニーダー氏は自分のライア制作のことだけでなく
ライアの発展全体のことを常に考えていました。
ライアの世界大会でライア制作者たちを一堂に集めて
交流に尽力したのもニーダー氏です。

また、私が滞在している間にも
工房にはよくライア演奏者の方たちが訪ねてきていました。
これらの多くのライア制作者や演奏者との交流を通した
世界中のライア事情についても沢山学ぶことができました。

楽器のことだけでなく
アントロポゾフィーに関してや世界事情に関してなど
多方面にわたって知ることができました。
もちろん、ニーダー氏自身についてもたくさん知ることができました。

そうでなければ、これほどまでにかかわることはなかったでしょう。

工房がある場所は、南ドイツのボーデン湖から15㎞程離れた高台にあります。
辺りは広い牧草地が続きます。
天気が良くて、空気が澄んでいる時は
その草原の遥か彼方に
スイスからオーストリアに続く壮大なアルプス山脈が望めます。
まるで、神々たちに見守られているようです。

ニーダー氏はいつもこの場所を「世界の果て」と呼んでいます。
考えてみれば、私は聖地への巡礼のように
この美しい場所に通い続けていたのかもしれません。
おかげさまで、私自身成長させていただきました。

と書いていると、もうすべては終わったかのようですが…

いえ、そうではありません‼
これからも、メンテナンスに関して
今まで通りに関わっていかなければなりません。
弦も供給していただかなければなりません。
ニーダー氏の音の研究にも興味があります。
まだまだ教えてもらいたいことがたくさんです。

これからも、巡礼の旅は続けなければなりません。

2023/11/17 井手芳弘

つれづれ471 ザーレムライア」への2件のフィードバック

  1. 私も、ザーレムのライアーと出会い、20年はたったのでしょうか。
    テナーアルトとソロソプラノ?を自分が弾けなくなるときまで、大事に大事に引き続けたいと思っています。
    他の方の楽器も手にして弾いてみますが、やはりザーレムに戻ってきます。私を支えてくれる楽器です。
    最後まで、よろしくお願いいたします。

    そして、
    ニーダー氏の音・響きへの研究
    私も願います。

    さらに、
    音・響きだけでなくニーダーさんの追求されてきたこと、是非、井手さんが通訳される形でお聴きする機会を作ってください。
    日本に沢山のライアー奏者がいると思いますが、ライアー楽器を通して、より人に近い、深遠なる語りを受けとりたいです。上手く話せませんが、その様な機会を作ってくださいますように、お願い申し上げます。

    1. コメントありがとうございます。
      また、ザーレムライアをご愛顧いただきありがとうございます。
      これからもメンテナンスに最善を尽くしていきますのでご安心ください。
      私も、日本の皆様にニーダー氏を紹介したいと思っています。
      日本に来ることを何度か勧めています。
      実現するといいですね。

      ペロルいで

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