いくつか前のつれづれで、
三本の寄り添うポールの謎について書きました。
長い間考え続けてきた問いに、
時折答えが見つかることがあります。
大切なのは、その問いを持ち続ける根気です。

シュタイナー教育の祖であるR・シュタイナーは、
あるところでこう語っています。
「精神的な世界との出会いは、
それに出会わなくても、
普段から準備をして、
その瞬間を待つことである。」

問いを持ち続けることは、
それに似ていると私は思います。
その「瞬間」は、ふとしたことから訪れます。
先月、シュタイナー学校で授業をしていた時のことです。

生徒たちに、
「どうして月食の時に月は地球の影に隠れるのに、
茶色に見えるのだろうか?」
と質問しました。
すると、ある生徒が
「太陽が大きいから、太陽の光が地球の影を通り越して月まで届くんだ」
と答えてくれました。
私は、「なるほど、いい考えだ。」
と返しながらも、
「ただ、地球と月の距離を考えたとき、
地球の影に月はすっぽり覆われるはずなんだよ」
と言いました。

そして、太陽から地球までの距離について、
黒板を使って計算し始めました。
まず、地球と月の距離は約36万キロメートル、
地球の直径は約1.2万キロメートルと説明しましたが、
途中で緊張のせいか計算がうまくいかず、
混乱してしまい、ギブアップしてしまいました。

宿に戻り、水行(夕風呂)をしながら、
再び頭の中で計算を試み、
次の日にリベンジして生徒に説明しました。

翌朝、早く目が覚めて、ふと
「本当に地球の影は月を完全に覆うのだろうか?」
という疑問が浮かびました。
「その答えを出すためには、やはり水行しかない!」
と思い、朝の水行(朝風呂)に入りました。

昨日の授業では、
「120メートル離れた場所に直径1メートルのボールが太陽だ」
と説明しました。
その後、ふと手元にあった5円玉を太陽に重ねてみると、
ちょうど重なりました。
このことは本にも載っていることです。

「フムフム…」
思い返します。

手の先に置いた5円玉の穴の大きさと
実際の太陽が重なるということは、
手の長さが60センチだとすると、
穴の直径は5ミリだから、
自分の目から五円玉までの距離の120倍が、
太陽までの距離に相当するということになる。

ということは、
太陽から地球までの距離は
太陽の大きさの120個分なんだ、
と気がつきました。

「えっ?たったの120個分?」

「光が届くのに8分もかかるから、
はるか彼方にあると思っていたのに、
たったの120個分?!」

これまで考えていたより、
太陽が身近に感じ始めました。

ちなみに、
地球は太陽の直径の100分の1です。
したがって、5円玉の穴の太陽に対する地球の大きさは
0.05ミリしかありません。
なんてちっぽけな存在なんでしょう!

そして、私の身長が173センチだとすると、
私は太陽の356倍にもなるのです。
超巨大!
すべてが想像を絶する世界です。
どんどん妄想が広がっていきます。

「えっ?」

「太陽が5円玉の穴に収まるなら、
月だって収まるじゃないか!」
今度は、5円玉の穴を月に見立てて考えます。
「ということは、
月から地球までは月の大きさの120個分だ!」

さらに考えを進めると、
太陽の大きさは地球の約100個分、
地球の大きさは月の4個分だから、
太陽の大きさは月の400個分になります。

「つまり、太陽から地球までの距離は、
月から地球までの距離の400倍なんだ!」
「太陽の端から端まで光で4秒もかかるんだ…」

頭の中は「なんだ、なんだ」が続きます。
「ということは、ということは」も続きます。

巨大な存在に圧倒されそうです。
気が付くと、私の体は水行でふやけていました。

横道にそれてしまい、
肝心の「月が地球の影に完全に隠れるのか」
という検証は、まだできていません。
もう出発の時間です。

電車の中で、
「月から見ると、太陽は地球の大きさの1/4だから…
完全に隠れるのは…」
「まてよ、一か所だけじゃないから…」
とブツブツ念仏を唱えながら考えます。

そして、最終的に
「やっぱり隠れる!!」と、すっきりしました。

「それでは、日食のとき、
月の影は地球にどう映るんだっけ?」
という新たな問いが浮かびます。

問いは簡単には終わりません。

2024/10/04 井手芳弘

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