私が探し求めていることの一つに
「ブロッケン現象」があります。
ブロッケン現象という名前は
ドイツのブロッケン山に出る巨大な怪物から来ています。
昔、ブロッケン山に妖怪が出ると恐れられていましたが、
それは見る人の影が空に映し出されることで起きていました。
人々は、これを妖怪の仕業と考えていたようです。
そしてその現象をブロッケン現象と呼ぶようになりました。
光学的には光輪現象(グローリー)と呼ばれています。
見ている人の影の周りにオーラのように虹の輪ができます。
知らない人が見たら、
さぞかし神か魔物の仕業だとして驚くことでしょう。
と言っても、ほどんどの人は見たことがないですからね。
私でさえ、今までに2回しか見たことがないわけですから(鼻高々!)
この現象は、主に富士山などの高い山の頂上で
朝日が昇ってくるときによく見られます。
ご来迎とも呼ばれ、阿弥陀如来の化身とも考えられていたようです。
飛行機の太陽と反対側の窓から外を眺めていると、
時々この光の環を見ることができます。
先ほど自慢したように、
私がこのブロッケン現象を見たのは、これまでに二度だけです。
一度目は、苦労して登った月山の山頂付近で、
大変な苦労して、ほとんど諦めかけていた中に
やっと見ることができました。
もう1回は教室の子どもたちと登った
由布岳の山頂で見ることができました。
その時は朝ではなかったのですが、
大きな火口の中に霧が垂れ込め、
その上にブロッケン現象が起きました。
それで、この印象的な現象、
いや阿弥陀如来を再度見ようと、
地図を見たり、風景を眺めたり、
ある時は朝飛ぶ飛行機から雲海の様子を確かめたりしながら、
太陽の出る方角と雲海が出る方角を
確認しながら場所を探していました。
そして、いつの日かその場所でブロッケン現象を見ようと、
日々修行を重ねていました。
しかし、努力の甲斐なく、
残念なことに、
それ以降ブロッケン現象を見ることはありませんでした。
ある日の朝、山で目覚めて辺りを見回しました。
雨音がしています。
窓の外は曇っています。
「せっかく今日の朝 晴れると思って、
満天の星空を観察しようと早寝したのに…」
傷心のまま、再び就寝しました。
お日様が出る前に起き、
窓を開けて外を見ると、霧が立ち込めています。
「これは天気が悪いのではなく、良いために霧が出ているんだ!」
「道理で星が見えず、霧が露となって木の枝から落ちてきていたんだ!」
「もしかして、雲海!」
「もしかしてブロッケン!」
早速 車を走らせ 霧の中を進みます。
しばらく走ると不思議な現象が現れました。
霧が不思議な色合いに色づいています。
まるで水彩で描いた色彩の構成のようです。
写真を撮ろうとすると、何か明るいものが キラッと輝きます。
「建物の屋根が太陽の光に当たって 輝いているのだろうか?」
「不思議な現象だ!」
とパチリ。
その明かりが次第に輝きを増していきます!
そして、その明かりはなんと
太陽の丸い縁の上部になりました。
霧の中の日の出だったのです。
「いい授かりものをした。」
初めて見る現象に感謝しながら、
ブロッケン現象の起きそうな場所を探します。
しばらく走ってみると 霧は完全に晴れ、
後ろを振り返ると後方に霧が立ち込めています。
「さあ、ここからは動物的勘、
いや預言者の予感を頼りに車をはしらせるぞ!」
Uターンするために車を停めて、
ふと車の排気ガスを見ます。
以前コーヒーの湯気で彩雲現象を体験したのを思い出します。
「車の排気ガスでも起きるかも。」
とよく眺めてみると虹色に色づいているではありませんか。
「これはいいネタになる。」
早速 写真を撮ろうとしますが、
うまく取れないので寝っ転がったりして撮ってみます。
それから予感を頼りにいろんなところを探して走りますが、
修行不足で予感が働かず、
どこにも見つかりません。
仕方がないので、どこの辺りに霧が立ち込めているか
確かめるために高いところに向かいます。
しかし、そこは霧だらけ、
どう見ても晴れそうにありません。
それでも坂道を少しずつ上がっていくと
お日様の明かりが見え始めました。
そして、次第にお日様はくっきりとなり
最後には明るく眩しいお日様に変わりました。
「やった!」
「ひょっとしたら、ここでブロッケン現象が見えるかもしれない!」
やはり預言者としての修行は進んでいるようです。
駐車場に車を停め、周りを見渡します。
道路の先に車止めのカラコンがあります。
「おう!」
なんとカラコンの周りに
大きな白い虹のアーチがかかっているではないですか!
それも くっきりと!
「これこそ、ブロッケンへの門!」
期待が高まります。
早速 カメラに収めようと思いますが
大きすぎて入りません。
仕方がないので分割して写真を撮ります。
動画で全体を撮ってみます。
その白いアーチをくぐりながら
( 残念ながらアーチをくぐることはできません。イメージです。)
道を登っていきます。
白いアーチはずっと私を迎えてくれていますが、
残念ながらその中心にあるはずの
小さなブロッケンの虹が見えません。
ブロッケンの虹を見るためには近くの草地ではなく、
白い虹の中心、
つまり自分の頭の影の場所が雲海の上でなくてはなりません。
残念ながら 自分の頭の影は草地の上に落ちています。
「この山肌を少し降りていけば、
斜面がきつくなって自分の頭の影が雲海の上に見えるかも?」
と思いましたが、
サンダルでは草の中を歩いて行けず、
長靴を取りに戻ります。
長靴を履いて再チャレンジです。
草原の斜面を降りて行くと、
確かに自分の影の中心は霧の上に行きますが、
自分の立ってる場所自体も霧の中に入り、
太陽がはっきりと輝いていません。
光量が足りないため
ブロッケンの虹ができないのでしょう。
仕方なくまた戻ります。
朝露で膝までジュクジュクです。
でも長靴の中は大丈夫です。
更に山道を上がっていきます。
そして再び草原を下りていきます。
ここの場所はススキが生えていて、
先ほどの場所よりも草が深くなっています。
腰まで濡れてしまいます。
今度は長靴の中までジュクジュクです。
「おう!」
「何という驚き!」
ついに、ブロッケンの虹が現れました!
「やったぜ オレって天才!!」
たま~に湧いてくる自信です。
人生 三度目です。
飛行機からは 何度も見ているものの、
やはり地上で自分の足を
大地に付けて見るブロッケンは格別です。
手を振ってみると、
向こうのブロッケン君も手を振ってくれます。
自分の手とブロッケン君の手が
黒い帯で繋がっているように見えます。
自分参加型のブロッケンは最高です。
飛行機の中から手を振っても
飛行機の影は変化してくれませんから。
しばらく眺めていると
次第にブロッケンが薄くなっていきました。
そして動画しか撮っていないのに気がつきました。
今度は写真を撮るために、
最適な場所を探し上っていきます。
再び、深い草をかき分けながら
少し急になった斜面へと向かいます。
草原がより明るくなっている場所を探します。
太陽の輝きが強ければ強いほど
虹は鮮やかになっていくようです。
再びブロッケン現象を見ることができました。
しばらく眺めていると、
霧はゆっくりと晴れて行き、
ブロッケン現象も次第に薄くなり、
山肌が見え、
草原が虹色に色づいたように見えてから
消えていきました。
「ひょっとすると、
向こうの山の端にたどり着いたらもっと見えるかもしれない。」
「せっかくここまで来たから行ってみよう。」
ほとんど 赤ずきんちゃん状態です。
こっちにお花、あっちにお花、と摘んでいる内に、
どんどん森の中に入っていく状態です。
山の斜面を登っていると小さな蜘蛛の巣がありました。
「この蜘蛛の巣、きれいな虹色にいるかも?」
立ち止まってよく見ると美しい虹色です。
「なんと美しい!」
動画に撮ります。
最近は本当に便利です。
動画に撮ることで、
虹の輝きの変化を表現できるのですから。
道は上がっていくと最後は行き止まりで、
向こうの道にはたどり着けません。
ありがたいことにここで終わることができました。
その場所からは雲海に包まれた阿蘇山が眼前に広がり、
いつもの風景とはまた違った美しい姿を見せていました。
早起きは三文の得、という言葉があります。
素晴らしい現象に出会えたこともありますが、
私はおまけに、
つれづれを書く材料まで手に入ってしまったのでした。
<早起きはつれづれの得>
2024.10.18.井手芳弘