第21回 ドイツ旅行・2
それでは少しニーダーさんの工房をご紹介したいと思います。
前回外からの写真をお見せしたのですが、
今回は部屋の中の写真です。
この家の中には住居と工房があり、
その工房も弦の制作室、木工機械室、
ライア制作室、セミナー室(未完成)と分かれています。
そのどれをとってみても、とても整理されていて、
美しい楽器はこのような整理された空間から生まれるのだな、
と私自身の工房の混沌を思い起こしながら深く頷いてしまいました。
現在、この工房で二人の職人達が働いています。
一人はマーチン、この工房で修行をして
マイスター(職人)の資格を取り、
最近この工房で再び働き始めました。
ちなみに、ライア作りのマイスターになるためには、
工房で実習しながら、
並行して弦楽器職人のための学校に通わなければなりません。
そこではライアだけではなく、
バイオリンやギターなど、
ほかの楽器も一通り作れるようにならなければならないそうで、
なんと、この地域にある学校は
世界的にも有名な学校だそうで、
世界各地の人がやってくるそうです。
そういえば、
昔パイプオルガンの工房の話をテレビで見たことがありますが
(昔はよくテレビを見ていました)
その工房もボーデン湖畔にあったように記憶しています。
都会から人里は慣れた文化の過疎地、だと思っていた場所は、
実は最も音楽文化の盛んなところだったのですね。
もう一人の職人はヨーク
(両方ともファーストネームで呼び合っているので苗字は分かりません)、
ゲルトナーのライア工房で長年働いてきた職人さんで、
作ったライアの数知れず、「千と千尋の神隠しで有名になった
木村由美さんのライアも自分が作ったのだ。」と話されていました。
ただ、量産体制にあったゲルトナーライアの作り方と
ザーレムライアの作り方が全く違うこと、
ライアに対する取り組みが異なるので
(形はほとんど同じに見えるけど)、
長年体にしみこんだ方法を変えることは
新たにライア作りを学ぶことより大変なことなのだ、
とニーダーさんは語っていました。
また、バイオリンとライアの違いをこうも語ってくれました。
いいバイオリン職人は、
すでに完成した昔の名器をいかに寸分たがわず模倣するか、
にかかっているが、いいライア職人は、
とにかくまだ完成されていない
理想的な形を目指してそれぞれが改良を加えていくことだ。」と
さて、ニーダーさんは
ご自分でライアの絃を作られているのですが、
これがその弦の製作機械です。
ライアの弦はすでに工業的製品として
機械的に出来上がるものだとばかり思っていました。
私の頭の中には、細い線がコイルのように
規則的に巻かれたライアの弦がまさか人の手で巻かれていようとは、
巻くことが出来るとは考えたことすらありませんでした。
両側の円柱形の物体がモーターで、その間に弦が張られます。
その芯になる弦に、細い巻き専用の線を
手でつかみながら巻いていくわけですが、
スイッチを入れてモーターの回転を少しずつ上げていくと
その細い線がシュルルルと巻き取られていくさまは
とても小気味いいものがあります。
ニーダーさんは弦作りのリストを見ながら、
この太さの芯線、この巻き線、と手際よく取り替えると
次から次に弦を作っていきます。
ただ、簡単そうに見える弦作りも、実はとても微妙なもので、
手で押さえる力や、
その他ことで出来上がりが全く違ったものになるそうです。
以前、「有名な弦メーカーに頼んだけれど、
こんなものがやってきてしまってどうしようかと悩んでいる。」
と言って、その弦を私に見せてくれました。
その弦はとてもきちんとしているし、どこに問題があるのか、
と私は正直思ってしまいましたが、
彼の作った弦を持ってきて比較してみると、
ニーダーさんの弦は限りなくプニプニしているのでした。
違いはただ、指加減だそうで、うーんとただうなるばかりでした。
作った弦はこのようにきちんと整理されています。
この下の布が敷かれたテーブルでライアの弦張りが行われます。
このようなものを私のほうでも作ったらどうか、
と提案されたのですが、うーん湿気の多いわが国ではやっぱり考えます。
ここだけの話ですが、これほど整理されているライア作りとは裏腹に、
彼のオフィスは混乱状態だそうです。なんだか親近感を覚えます。
この部屋は機械加工室で、
木工機械が所狭しと並んでいます。
ここで、長年寝かされた木材が加工されていきます。
荒削りの木からあの美しいライアが生まれてくることを想像すると、
魔法としか思えなくなってきます。
その部屋の屋根裏には、
ある段階まで加工されたライアが積まれています。
こうしてまたしばらくの間寝かされひずみが取られていきます。
この部屋ではフレームの組み立て、
共鳴板の張り合わせ、削り加工、塗装、ピンの穴あけ、
ピン立て、などライアの製作工程のほとんどが行われます。
前回は二日中、今回も一日中この部屋で話し続けました。
窓の外には雪景色の広い世界が広がり、
そこから柔らかな日差しが射しこんでいました。
2018.03.04.