第65回 結局また来てしまった…パート2

新たな体験は突然訪れてくる。

それは、何の前触れもなく。

何の期待もしていなかったときに、何も見えていなかったのに、

曲がり角を曲がったときに、突然開かれた世界が現れてくるようなもの、

それも今回は彷徨するたくさんの人たちの列の中で、開かれていった特別の想い。

たくさんの人たちの中で自分の影を探す体験。

思えば、ずっとずっと自分の影を追いかけてきた。

自分のことばかりを考えていたいから?

いや、ちがう。自分の影は客観から主観への秘密の入り口。

自分の影をしっかり見届けることで、

主観的なものを客観的に整理していくことができるような気がするから。

たぶん、昨日の迎え火で、

自分の中の何かと私の周りが一つの準備をしたとでも言うのだろうか。

結局迎え火の近くで夜を明かし、澄み渡った空の下、

せっかくここまで来たのだからついでに最近出来た吊り橋によってこよう。

と早朝筑後川の川べりを走りながら、寄り道をしないように九重の九酔峡をめざしました。

<頭の中には、ずっと暖めてきた吊り橋からの風景がありました。

それは、あたり一面紅葉した谷と山の空中からの眺めでした。>

残念ながら空中からの紅葉というわけには行かないようです。

たどり着いたのは、朝の7時半。

よく見ると橋が通れるのは12月より9時からと書いてあるではありませんか。

ああそうか、月夜の橋渡りなんてないんだ、といまさら気がついてしまいました。

「別にやることはたくさんあるし。」と車の中で仕事していると、

不意に放送「本日は8時より入場できます!」

「えー本日は8時より入場できます!」「え?どうなってんの?わけわかんない?」

「でもいいか、せっかく来たからとにかく行ってみよう。」

「別に撮るものもなさそうだけど、カメラもとりあえず持っていこう。前例もあるし・・・」

500円の入場券を払って入ってみる。

すでにそこにはたくさんの人たち。

対岸まで300mチョイの直線、とにかく歩いて行って帰ってこよう。と歩き始める。

(まさか、それから3時間寒い橋の上に居続けることになろうとは誰もしるよしのないことでした)

何もないだろうという想像とは裏腹に、

深い谷あいの影の部分が次第に明けていく様はなんともいえない美しさでした。

時折、燃えるように輝く葉が目に飛び込んでくる。

深い影の手前で光を受けている葉は暗闇の淵で光を放っています。

時間の経過とともに変化していく様は見飽きることがありません。

こんなとき、光の観察を続けていたことをただただよかったと感謝の気持ちで一杯です。

向こう岸にやっとたどり着き、対岸でひとしきり時間を過ごした後、また戻ることに。

気がつくと、すでに橋の上はすでにたくさんの人が歩いています。

「橋の真ん中は歩かないでください。」というアナンスが時折スピーカーから流れてきます。

・・・いつか味わったことがあるこの感じ・・・人々は数珠つながりに狭い道を歩く。

そう、ここは空の一本道

・・・

「さあーお立会い、空中浮遊の始まりだよ。みんなここから次第に空中に飛び出すんだ。」

「わき目を振らないでください!何も考えないでください!心を空にして繋がって、繋がって!」

「間を空けると落ちちゃうからね!」「ほらほらそこのお兄さん、頭上げちゃだめ!」

「立ち止まらない。落っこちちゃうよ!」

自分たちの影とはしばしのお別れ。

影たちは影たちで、山の斜面を数珠繋ぎで降りていく、

みんな魂を抜かれたように前かがみになりながら。

そして、徐々にその影は谷間の斜面に消えていく。

影たちが歩いていたのは一本の影の道。

影たちが消えた跡にもどこまでもくっきりと続く影の道。

闇の中でさえ影を差す闇の道。

私たちは浮遊者、もはや影を奪われ、影のことさえ忘れて浮遊している者たち。

私たちの道はどこへ?

私たちはいったいどこへ?

天の人の列の中で、私は思わず亡くしてしまった影の方を見やる。

「おやおや、あんた何をなさっとる?置いてきた自分の影を探そうなんてもうできるもんではない。」

「影は別の世界に行っちまったんだ。忘れるこった。」隣の老人がつぶやく。

「おじさん。分かっているけど、僕はずっと自分の影を追いかけてきたんだ。

ずっと、ずっと。そして知っているんだ、自分の影の周りにはいつも神様と繋がる印があるってことを。

あるときは丸い虹だったし、あるときは放射状に広がる光だったり。

だから見えなくったって、きっと何か印を残しているに違いないんだ。」

「おまえさん。今回だけは無理だわね。

だって影そのものが消えてなくなってるんじゃ手の施しようがないだがね。」

老人の声を背に一生懸命自分の影があるであろうかなたを見やる。

そこには天の影の道がただ続いているだけの場所。

それでも探しているときに、ふとどこかで誰かがつぶやくように歌い始める

「私には全ての影が従う。私の前には世界中の影がひれ伏す・・・(繰り返し)。」

「そういえば、谷間の木々の影たちもはやはり私の影に従ってくれているのだろうか?」

そう思いながら木々の影を眺めてみる。

「見つけた!!」「自分の影を見つけた!!」

谷間の木々の影の中心には一ヵ所、まったく影のない場所が。

私が歩くとその影のない場所も前に進んでいく。

今まで影だった場所は影が消え、影がなかった場所には影が生まれる。

私の影は消えた、でもそのおかげで影がさえぎっていたものが今見え始めた。

私の影は指し示す。世界中で唯一つ、影のない場所を。

全ての影を従えた、影の泉を。

遠く離れながら、私は自分の影が光として語りかけくるのを感じた。

よかった、繋がった。立ち止まれた・・・

全ては流れる。

しかし流れの中で私に語りかけてくるものがある・・・

歩いていこう。

歩く中で見えてくるものがある。

必ず付いて来てくれるものがあるから。

・・・

あのときの体験をうまく伝えることができずに、

新年早々妙な表現をとってしまい皆さんにはわかりにくい思いをさせてしまったようで

申し訳ありませんでした。

いつかは今回の体験を何とか整理できるか、と思います。

ますます、自分の影を追いかけて私はどこに行くのでしょう。

みなさん。お付き合いありがとうございました。

2007.01.05.

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