ラウター・ヴァッサーさんでの研修を研修と呼べるかどうか分かりません。
それは、ヴァッサーさんのお家を訪ねて、単に2時間ほどお話しをしただけだからです。
でも前回初めてお会いして、いただいたDVDなども見て、
一年間の間様々なことを考えてまたお会いするわけですから、単に二時間だけの研修でもないかと思います。
今回、ラウター・ヴァッサーさんから託されたのは、彼の書いたWasser Klang Bilderという本でした。
DVDでは様々な水の振動による動きが映像としてあらわされていましたが、
この本は、より詳しく振動の様々なヴァリエーション、それにそのほかの事柄との関連性が述べられていました。
わりとよく知られているのはクラドニー板の実験で、四角い金属の中心の下を棒で固定し、
一本足のテーブルのような格好で動かなくした板の上に細かい砂を均等に薄く撒きます。
その金属板の端をバイオリンの弓で弦を弾くように弾くと、板がある音を出し、
そのことによって表面の砂がある形態をとるというものです。
よく、科学館の展示などで見ることがあります。
その形態を見るまでは、単に金属板が振動している、というイメージしかなかったのですが、
この模様を見るといかに金属板が複雑に振動していたのか、ということがわかって、
少し神秘にふれた感じがします。
一つの高さの音の中には倍音が含まれていて、それによって音は複雑になり、
味わいが生まれるということを聞きますが、実際のそのフォルムの複雑さには驚かされます。
驚きで終わってしまうのが普通なのですが、それをさらに深めていったのが、
ハンス・イェニーであり、ラウター・ヴァッサーさんでした。
ラウター・ヴァッサーさんはそこから始まって、
さらに様々な音の高さでどうなるかということを試みられました。
そこに生まれてくる形体の多様さ、バランスには目を見張るものがあります。
それは、チベットの宗教画の曼荼羅を思い浮かべさせられます。
それとともに、昆虫類や節足動物の形態、背骨の形体などに見えてくるものがあります。
どれ一つとっても、ずっと見入っていたいような形態が
これほどたくさん生まれるのか、と驚きを隠せません。
しかも、条件はただ、下から振動を与えるという単純なことだけでです。
亀の甲羅に見えてくる形態がありましたが、
ヴァッサーさんは亀の甲羅についての分厚い本の原稿を仕上げたばかりだと言われていました。
そして、とても大切そうに日本語の爬虫類図鑑を見せていただきました。
「これは、やっとの思いで手に入れたものだ。」とのこと、
こういうところに日本の研究者が評価されているのだ、と驚かされました。
これは、金属板の振動だったのですが、その次に水の振動(波)というものに研究対象が移っていきました。
水というものはとても不思議な物質で、自分自身では形を持たず、それを入れる容器によって形を変えます。
また、表面張力の力によって、水面に繊細な波を作ることができます。
また、透明であり、光を部分的に反射するという働きがあります。
そのほかにも、考えれば考えるほど、その不思議さに驚かされますが、
あまりに私たちの身近にあり、また自分たちの中にあるために、その存在を忘れてしまいそうなのですが・・・
その水を、シャーレに入れて(大体がお菓子のケースらしい)下から振動を与える、ということをやられました。
そこから生まれてくる形態はローズウィンドウという教会にある丸いステンドグラスの模様にも似た、
いろんな花の形態に似たものが生まれて来ました。
その形態はクラドニー板の形態とは比べ物にならないほど繊細で複雑なものが生まれていました。
人間は宇宙の振動によって作られた、ということを聞いたことがありますが、
一つの高さの音、つまり小さくて細かい同じ振動を水に与えることによってある形態が生まれ、
その働きかけが終わると元の水面に帰って行く、という様は
動きの中でのみ形態が生まれるという生きた存在を感じました。
2009.03.06.