私たちの世界は舞台、
動いているといわれている地上に立って、
私たちはそこで演じられている舞台を眺める。
動いている?
それだったら移動舞台。
回り舞台とは違う。
そう、それは大きなトラックの荷台、
荷台には舞台と観客席が併設されている。
屋根はなし。
時々宙返りしてみたり、
横向きで走ったりするかもしれない。
でもそこには安定装置が付いていて、
逆さまになってもお客様はシートベルトなんか付けなくったって、
ゆったりと座っていることが出来る。
座布団だって落っこちないし、
お盆の上のお茶だって何の心配もない。
まるで、ひっくり返っていることなんか、さっぱり感じない。
「お客様は神様です。
お客様にゆったり安心してくつろいでいただくために、
当劇場では最大のサービスを心掛けています。」
「なお、急ブレーキ、急発進、急カーブ、
ありませんのでゆっくりとご安心しておくつろぎください。」
「舞台に登場する役者たちは、
星座たち、惑星たち、太陽、月、でございま〜す!
どれをとっても、どこに出しても恥ずかしくない役者たちでござーい!」
「それと、お客様にも一つご参加いただかなければいけません。」
「お客様の影でございまーす!」
「なお、この劇場はあべこべ劇場。俳優多数、お客様はお一人でございます。」
「お客様は神様ですから、この劇場ではお客さまお一人でございます。」
「パパ、パパ。どうなってんの?」
「大丈夫かな?」
「見に来ているのたくさんいるじゃない?」
「人の数だけ劇場あるのかな?」
「おまけにお日様や星たちやお月さま、一つじゃない?どうするんだろう?」
「そろそろ開演でございまーす。」
「お客様はご入場いただき、ふわふわお座部にお座りください。
オッとお譲ちゃん、ご一緒?まあ特別お許しだ…!」
「お嬢ちゃまは神様でござい!」
「お二人様、特別、ご入場」
* *
ジーッ…(開演のブザーの音)
幕が開く
前座:金星の打ち上げロケット花火…
「さあ、ご覧あれ!」
「世紀の惑星ロケットでござい!」
「瞬劇ショートだよ、よくご覧あれ!」
「まず、宵の明星ロケットでござい」
「夕暮れの暮れゆく空に現れるは絶世の美星、金星であります。」
「舞台におわしますお日様が、
にぎやかな音を鳴らしながら西の舞台へと降りていきま〜す。」
−お日様が舞台の下へ退場し、
あたりはとたんに暗くなり、夕暮れが訪れる。
街はシルエットになり、
空は深い青からオレンジにかけてのグラデーション。
にぎやかな音の余韻として、
虫たちのシーンとした鳴き声。
「そこへ舞台の下からしずしずと斜め左へと登場するは、絶世の美星、金星でござい!」
「空を滑るようにゆっくりと控えめに、優雅に駆け上がりま〜す!」
「ご覧あれ!駆け上がりながら、徐々に輝きを増していきま〜す!」
「オッと!濃紺の空の高みで宙返り!」
「オッ! ご覧あれ!その黄金色の髪を燦然と輝かせながら、
落ちていくはロケットか、はたまた流れ星か!!」
「いよーっ!われらが金星!!」
−金星、やや輝きを落としながら、舞台の下へと退場
「あーぁ、面白かった。でも一瞬だった。」
「アンコール、アンコール」
「お客様、前座でアンコールは困りま〜す!」
「おまけに、半年かけての舞台ですから、そうそう繰り返しもできません。」
「えっ?あっ、ほんとだ、半年経ってる!」
「何なのこの舞台。」
2010.01.22.