141 星の話・4

私たちの世界は舞台、

動いているといわれている地上に立って、

私たちはそこで演じられている舞台を眺める。

動いている?

それだったら移動舞台。

回り舞台とは違う。

 

そう、それは大きなトラックの荷台、

荷台には舞台と観客席が併設されている。

屋根はなし。

時々宙返りしてみたり、

横向きで走ったりするかもしれない。

でもそこには安定装置が付いていて、

逆さまになってもお客様はシートベルトなんか付けなくったって、

ゆったりと座っていることが出来る。

座布団だって落っこちないし、

お盆の上のお茶だって何の心配もない。

まるで、ひっくり返っていることなんか、さっぱり感じない。

 

「お客様は神様です。

お客様にゆったり安心してくつろいでいただくために、

当劇場では最大のサービスを心掛けています。」

「なお、急ブレーキ、急発進、急カーブ、

ありませんのでゆっくりとご安心しておくつろぎください。」

「舞台に登場する役者たちは、

星座たち、惑星たち、太陽、月、でございま〜す!

どれをとっても、どこに出しても恥ずかしくない役者たちでござーい!」

「それと、お客様にも一つご参加いただかなければいけません。」

「お客様の影でございまーす!」

「なお、この劇場はあべこべ劇場。俳優多数、お客様はお一人でございます。」

「お客様は神様ですから、この劇場ではお客さまお一人でございます。」

「パパ、パパ。どうなってんの?」

「大丈夫かな?」

「見に来ているのたくさんいるじゃない?」

「人の数だけ劇場あるのかな?」

「おまけにお日様や星たちやお月さま、一つじゃない?どうするんだろう?」

「そろそろ開演でございまーす。」

「お客様はご入場いただき、ふわふわお座部にお座りください。

オッとお譲ちゃん、ご一緒?まあ特別お許しだ…!」

「お嬢ちゃまは神様でござい!」

「お二人様、特別、ご入場」

*   *

ジーッ…(開演のブザーの音)

幕が開く

前座:金星の打ち上げロケット花火…

「さあ、ご覧あれ!」

「世紀の惑星ロケットでござい!」

「瞬劇ショートだよ、よくご覧あれ!」

「まず、宵の明星ロケットでござい」

「夕暮れの暮れゆく空に現れるは絶世の美星、金星であります。」

「舞台におわしますお日様が、

にぎやかな音を鳴らしながら西の舞台へと降りていきま〜す。」

−お日様が舞台の下へ退場し、

あたりはとたんに暗くなり、夕暮れが訪れる。

街はシルエットになり、

空は深い青からオレンジにかけてのグラデーション。

にぎやかな音の余韻として、

虫たちのシーンとした鳴き声。

「そこへ舞台の下からしずしずと斜め左へと登場するは、絶世の美星、金星でござい!」

「空を滑るようにゆっくりと控えめに、優雅に駆け上がりま〜す!」

「ご覧あれ!駆け上がりながら、徐々に輝きを増していきま〜す!」

「オッと!濃紺の空の高みで宙返り!」

「オッ! ご覧あれ!その黄金色の髪を燦然と輝かせながら、

落ちていくはロケットか、はたまた流れ星か!!」

「いよーっ!われらが金星!!」

−金星、やや輝きを落としながら、舞台の下へと退場

「あーぁ、面白かった。でも一瞬だった。」

「アンコール、アンコール」

「お客様、前座でアンコールは困りま〜す!」

「おまけに、半年かけての舞台ですから、そうそう繰り返しもできません。」

「えっ?あっ、ほんとだ、半年経ってる!」

「何なのこの舞台。」

 

2010.01.22.

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