142 星の話・5

「今度は何が出てくるんだろうね?」

「楽しみ楽しみ。だって、さっきのおもしろかったからね。期待しちゃうよね」

「あっ!題名が変わってる。なになに?月と木星と私の出会い?」

*   *

「影眼鏡はいかが?」

「空に昇った影が見える不思議な眼鏡だ。今日の舞台はこれなしでは半減!半減!」

「じゃ、ちょうだい!」

ジーッ…(ブザーが鳴る。舞台が開く)

幕が開く

−空にはさっきの金星の軌跡の名残が残る。

白みかけた夕暮れ

「何にも、ないじゃない?」

「いつになったら始まるの?」

「お嬢ちゃん、もう始まってますからお静かに、この舞台はお客様参加型です。

まず、お客様の影を登場させていただきます。眼鏡をお忘れなく。」

「えっ? 何なの?影が伸びていく!あっ、舞台に上がっちゃった!」

 

−舞台に上がった影は立ちあがりこちらを向いて、頭を下げる。

「はじめまして、私は影でございます。

いつも、お日様が出た日には寄り添ってお付き合いさせていただいています。」

「今日は、私も参加させていただけるということで、大変うれしく思います。」

「なにを申しましょう。

私は、普段こういう日陰の身ですが、実は私は満月の使者なのでございます。

今日は、満月、私がお月さまと出会える日なのでございます。

月に一度だけですが、この日を楽しみにしております。

さらに、今日は満月さまがしし座で満月を迎える日でございます。」

「なんと、しし座では、あの木星様がお満月様と出会うのを楽しみにしておいでだったのです。

なにせ、一年ぶりの出会い、さぞかし、ない首を長——くしてお待ちだったことでしょう。」

「一昨日はまだ完全には満たされない形でかに座においでで、昨日輝きを増し、

しし座に近づかれておいでだったお月さまが、

本日は、しし座にやってこられてその輝きをお渡しになられるのです。

それには、私も関わらせていただくのです。

だって、私はお客様と舞台をつなぐ、唯一の存在だからです。」

「今日は一年に一度、満月のお月さまが木星と出会う特別の日でございます。」

 

−影は一礼すると、片方の手を高く伸ばし、さらに伸びていき、町影と空の境に近づく。

それと同時に、影の頭の回りの地平線が不思議と輝いたかと思うと、

影はヒラリと空に駆け上がり、その頭と重なるところに、

煌々と輝く満月のお月さまが獅子の背中に乗りながら上がってくる。

一緒に、やはり明るく輝く木星が乗っている。

どこからともなく犬の遠吠えが聞こえる。

ワオーン・ワオ・ワオ・ワオ・ワオー

「今宵、いざよい、よっきに出でて、一月ぶりの出あいだのほほん。」

「はい、ありがとうございます。」

「今日は、木星様とご一緒ですね。」

「影主とーの月日、いかように、過ごしませ〜う?」

「ちょっと、身勝手なところもあり、おちつきがないので、

おろおろすることもござますが、楽しい暮らしでございます。」

「何、勝手なこと言ってんの?」

「変なこと言ったら、戻ってきたとき、承知しないから!」

「おまけに、あのお月さまの言葉って、とっても変じゃない?」

「太古から変わってないから仕方ないか。」

「よきかな、よきかな、いざ、これより、天の頂に昇りて、皆と祭りをせんとや〜」

−獅子は満月と木星を背中に乗せながら、

周りにたくさんの星たちを従えて空を駆け上がっていく。

影は紫色に輝きながら、地上から離れ、

昇っていく月と頭の部分で繋がりながら、足は観客についたまま宙に浮いていく。

「パパ!パパの影、お月さまと一緒じゃないみたいだけど、大丈夫?」

「私の影だけが参加してごめんね。」

「大丈夫、大丈夫。」

「こちらからはちゃんと自分の影がお月さまと一緒だから心配ないよ。」

「えっ?そうなの?変なの。まあいっか。」

 

−影が垂直に立ち上がり、頭から出た垂直な柱となり、その上に中空舞台を作る。

しし座はその上で満月を降ろすと、立ち上がり木星を乗せたまま踊り始める。

「よきかな、よきかな。今宵よきかな」

「我こそは、満月なーり、

お日様の光を人を通して目覚めの光に変え、世界を目覚めの輝きで満たす者なり。」

「お月さま、まともに話してるじゃん。」

「あれ、私の影が変。真っ直ぐな影の柱を紫色の光が通り過ぎていく。」

 

−影を通った紫色の光は薄紫に変わり、月へと流れ込む。

月は薄紫に輝いたかと思うと、その光で木星をさんぜんと照らし出す。

「我こそは今、獅子を従えたる木星なり、

今宵、私は、深い、深い夜に、満月の輝きを吸い込みながら、

世界の輝きを吸い込みなら目覚め、

世界中に目覚めの輝きを感謝と共に返す。」

 

−木星は光を受けながら、獅子の上で立ち上がり、

飛び上がったかと思うと、両手を大きく広げ、ゆっくり後ずさりしながら光を吸い込み、

錫色に輝く髪の毛を放射状に広げつつ、大きくなりながら輝きを増す。

満月からのスポットライトがさらに木星を輝きへと駆り立てる。

木星からの輝きは、四方八方に向かい、夜空を満たす。

そらは、金属が奏でる白くて明るい響きたちで満たされる。

「ひゃー、すごいすごい!」

「あっぱれあっぱれ。」

「みんなすごーい!」

「私の影も、特別出演なのにすごーい!」

それに、木星の輝きって、そんなに明るくないのに、

世界を優しくながめてくれているようなかんじがするのはなんでだろう?」

「はいありがとうございました。どうもどうも。」

「お嬢ちゃんありがとうね。あっ、眼鏡忘れないようにね。」

「えっ?返すの?お土産じゃないの?残念!」

「お土産、あげてるよ。」

「この眼鏡を一度かけると心の中にインプットされるから、

いつでも見たいと思ったときに、見ることが出来るからね。ただし、心が本当に願ったときね。」

「ありがとう!」

 

2010.01.22.

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