171 光と色の話・3
「曇りの日が続くよね。」

「梅雨って、じめじめして、光もなくていやだな。」

「五月の初めの五月晴れの日がよかったな。風に光が乗った感じで。」

そうだね、でも、曇りの日は光がないわけじゃない。どちらかというと、光に包まれているって感じかな?

「えっ?どうやったらそんなに思えるの?」

「単にへそ曲がりか、屁理屈をこねているだけじゃない?」

というか、光は降り注いでいるから、周りの物はよく見えているわけで…

遠くの物はかすんでいくかもしれないけどね。

曇りの日になくなるのは、光じゃなくて影なんだ。

「影がなくなる?」

そう、世界中から影が盗まれていく。

あの桜の木からも、電柱からも、ビルからも、山からも、走っている車からも、人からも。

世界中が、影のない世界になっていくんだ。

ピーターパンの影を取られるお話しがあるけど、実際に影をなくすことってあるんだと思う。

曇りの日って自分の周りからすべて光を受けている状態なんだ。

一か所から射していた光が、どんどん広がっていって、最後には空全体から光が射してくる。それと同時に影がぼやけていって、最後には消えていってしまう。

光の部分と影の部分が混ざり合ってしまって、もう、どこが光だか、影だかわからない状態になってしまう。

そう、つまり光に包まれているって状態だね。

「え〜っ?光に包まれるって、もっと素敵な感じがするけどな。」

「<曇りのどんよりとした感じ>が<包まれている感じ>だっていうのはいやだな。

<周り全体から光に包まれるってどんな感じだろう?>ってずっと考えていたことがあったんだ。

体験したいな、どうやったら体験できるだろうか、ってね。

上から横から下から全体から光がやって来るって感じはどんな感じだろうって。

ジェームス・タレルという人の作品で、そういうものを体験できるカプセルがあってね、ちょうどCTスキャンの台のようなものに寝っ転がって、そのカプセルの中に頭だけすっぽり入るって体験する、って感じらしいんだけど、それを体験したいなって思ってたんだ。

「閉所恐怖症の人は耐えられなさそう!」

ある日、飛行機で飛ぶことがあって、

雨の日で、<でも、空に上がれば晴れ、地上がどんなに曇っていても、空の上はお日さまが射す真っ青な空>って考えながら、楽しみにして飛び立った。

ところが、どんなに高く飛んでも雲がなくならなくってね。

ああ、今日は最低、って窓の外を眺めながら思っていたんだ。

視界はゼロ、窓からの風景はただ霧の白さだけ。

そして、気が付いた。

これって、自分の周りがすべて光に包まれる体験じゃないかって。

それから、もう、楽しくてね。ああ、こんな感じなんだ、光に包まれるって、って

思いながら、外を眺めていた。

全体から光を投げかけるテーマパークの巨大乗り物だ!

それから、曇りの日も楽しくなった!

「あっ、そう」

「それはよかったね」

……

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