175 光と色の話・7外灯と影の会話

ジージージー

ワシャワシャワシャ

ジージージー

ワシャワシャワシャ

○「暑いなー」

△「だねー」

○「入道雲、イカスよな。」

△「だねー」

○「……」

○「おまえ、だね—しか言わないよね。」

△「だねー」

○「……」

△「だって、オレいわゆるおまえの影だし。」

△「おまえは、堤防端に立っている街灯だし。」

△「おまえも、ずいぶんくたびれてきたな。」

○「……」

△「塗料はげて錆がいっぱいだし。」

△「おまえに結び付いている赤い旗なんか、ちぎれて飛んでるし。」

○「今日は結構しゃべるじゃん。」

△「管理の人も、少しきれいにしてあげればいいのにね。」

△「ちょっとしたことできれいになるのにね。」

△「忘れられてる感じだね。」

○「……」

○「いいじゃん。」

○「周りには何にもないし、一人でのんびりできるし。」

○「おまけに、おまえ、いるし。」

△「オレ?」

○「そう、オレ」

△「しおらしいこと言うじゃない。」

○「いいよな、お前。」

○「古くなることないし。」

△「古くなる?」

△「だよね、いつも新しいかも。」

△「でも、考えんだよね。」

△「オレって、いるのかってね。」

○「いるじゃん。」

△「いや いや いや いや!」

△「だって、おまえいないと、オレいないし。」

△「お日さまないと、オレいないから…」

△「たまに、月の影になってみたい、って思うんだけど、夜はお前がお日さまの代わりに輝やくから、オレ、夜の間、出てこれなくて寝てるだけ。」

△「一度だけ、あった。」

○「あったっけ?」

△「おまえの電線にトラックの荷物が引っ掛かって切れたとき。」

△「おまえは大慌てだったけど、オレ、満月の影になれてうれしかった。」

△「星見たの初めてだったし。」

△「大きな星しか見えなかったけど。」

△「それからだよね。おまえがマフラーみたいに赤い旗、はためかしてるの。」

△「くたびれたよな。」

○「オレ?」

△「いや、その旗。」

△「でも、なんともいい感じかも。」

△「しみじみってやつ。」

△「風がやってくるとよりしみじみ。」

△「オレの黒いマフラーも地面でゆーらゆら。」

○「……」

○「おまえさ…、オレの影でよかった?」

△「何だよいきなり。結構気に入ってるよ。」

△「こっからの眺めも好きだし。」

○「そっか… よかった。」

△「なに、言ってんの。」

○「入道雲、きれいだよね。」

△「だねー。」

○「暑いね。」

△「だねー。」

ジージージー

ワシャワシャワシャ

ジージージー

ワシャワシャワシャ

△「オレ、おまえと一度虹見たことがある。」

△「でっかいやつ。」

○「だったっけ。」

ジージージー

ワシャワシャワシャ

ジージージー

ワシャワシャワシャ

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