ジージージー
ワシャワシャワシャ
ジージージー
ワシャワシャワシャ
○「暑いなー」
△「だねー」
○「入道雲、イカスよな。」
△「だねー」
○「……」
○「おまえ、だね—しか言わないよね。」
△「だねー」
○「……」
△「だって、オレいわゆるおまえの影だし。」
△「おまえは、堤防端に立っている街灯だし。」
△「おまえも、ずいぶんくたびれてきたな。」
○「……」
△「塗料はげて錆がいっぱいだし。」
△「おまえに結び付いている赤い旗なんか、ちぎれて飛んでるし。」
○「今日は結構しゃべるじゃん。」
△「管理の人も、少しきれいにしてあげればいいのにね。」
△「ちょっとしたことできれいになるのにね。」
△「忘れられてる感じだね。」
○「……」
○「いいじゃん。」
○「周りには何にもないし、一人でのんびりできるし。」
○「おまけに、おまえ、いるし。」
△「オレ?」
○「そう、オレ」
△「しおらしいこと言うじゃない。」
○「いいよな、お前。」
○「古くなることないし。」
△「古くなる?」
△「だよね、いつも新しいかも。」
△「でも、考えんだよね。」
△「オレって、いるのかってね。」
○「いるじゃん。」
△「いや いや いや いや!」
△「だって、おまえいないと、オレいないし。」
△「お日さまないと、オレいないから…」
△「たまに、月の影になってみたい、って思うんだけど、夜はお前がお日さまの代わりに輝やくから、オレ、夜の間、出てこれなくて寝てるだけ。」
△「一度だけ、あった。」
○「あったっけ?」
△「おまえの電線にトラックの荷物が引っ掛かって切れたとき。」
△「おまえは大慌てだったけど、オレ、満月の影になれてうれしかった。」
△「星見たの初めてだったし。」
△「大きな星しか見えなかったけど。」
△「それからだよね。おまえがマフラーみたいに赤い旗、はためかしてるの。」
△「くたびれたよな。」
○「オレ?」
△「いや、その旗。」
△「でも、なんともいい感じかも。」
△「しみじみってやつ。」
△「風がやってくるとよりしみじみ。」
△「オレの黒いマフラーも地面でゆーらゆら。」
○「……」
○「おまえさ…、オレの影でよかった?」
△「何だよいきなり。結構気に入ってるよ。」
△「こっからの眺めも好きだし。」
○「そっか… よかった。」
△「なに、言ってんの。」
○「入道雲、きれいだよね。」
△「だねー。」
○「暑いね。」
△「だねー。」
ジージージー
ワシャワシャワシャ
ジージージー
ワシャワシャワシャ
△「オレ、おまえと一度虹見たことがある。」
△「でっかいやつ。」
○「だったっけ。」
ジージージー
ワシャワシャワシャ
ジージージー
ワシャワシャワシャ