176 光と色の話・8
夏の空は続く。

こうして、ビルの谷間の切り取られた空間で過ごしていても

子どものころに過ごしていた、広い夏は、ここまで続いている。

木々の間を抜けていく太陽からの輝きを通して、

雲の上に乗っかって。

夏の時間も続いている、

こうして、ビルの谷間の切り取られた空間で過ごしていても・・・

「なにボッーとしてるの?」

「暑さで頭やられた?」

「どこか、涼しいところないかな?」

「北海道や高い山の上は無理だし、どこかいいとこない?」

そりゃー 泉でしょう。

「それって、池みたいなもの?」

そう、池みたいだけど、とてもきれいで澄んでいる。

「どうして池と違って澄んでるの?」

それは、常にきれいな水が地面を通して湧き出てくるから。

湧き出た水が、水の表面に上がってきて、水面の上に浮いているごみたちもいっしょに岸の方に流されて、そこから生まれる小川に流れていくから。

でも静かに湧いているから、いくら眺めていてもどこから湧いているか分らない。おまけに、泉の場所って木々に覆われた場所にあるから、風もなく、表面は鏡のようにツルツルとしている。

まさに水でできた鏡。

「その場所って涼しいの?」

水の温度が13度ぐらいだから、その周りはひんやりと涼しい。

ずっと手をつけていられない感じ。

こんなに冷たいから、冬はさぞかし厚い氷が張っているだろう、って思ったんだ。

ところが、雪の積もった時に行って驚いたことには、まわりはたくさん雪が積もっているのに泉の近くまで行くと雪が解け始め、泉の場所からは湯気が出ていた。

驚いて、手をつけてみると、暖かかった。

雪景色の中に鏡があった。

ところで、鏡が物を映すって、どんなことだか知ってる?

「えっ?」

「質問の意味が分らない。」

「映す以外に何があるの?」

鏡があると、そこが窓になるんだ。

その窓を通して見える世界は、この世界の映しの世界で、窓の向こう側にもう一つの世界が生まれるんだ。

この世界とまったく同じ大きさで逆さまの世界。

ただ、その中に入っていくことはできないけど。

だから、影は水面に投影されずずっと奥の永遠の世界に吸い込まれてしまう。

「・・・」

「行こう!」

泉を探しにいこう。

明るい空の下。

雲がどこまでもどこまでも続く。

その下に静かに、静かに隠された泉を探しにいこう。

そこには静かに静かに、水をたたえ、世界を映し出す泉がある。

時折吹き抜ける風に、身を震わせながら

泉を。静かに遠くを見据えて進んでいこう。

泉は震えたがっているんだ。

ずっと、映った世界をその中に携え続けるだけでなくってね。

だって、それだと、泉の自分自身の存在が分らないじゃない?

だからね、風を待っているんだよ。

その風に身を打ち震わせて、細かいさざ波を立てる。音もなく。

そこには世界が映り続けているんだけど、映っている世界の動きの中から、自分自身の存在の動きを知るんだ。

動きそのものが存在じゃないよ。

動くことによって、存在が明らかにされるってわけ。

動きは出会いだからね。

水でもなければ風でもない。

二つの物が出会った姿。

風はどこから?

お日さまから。

他の波もある。

アメンボの波紋

雨の波紋

どこから来るんだろうね?

みんなお日さまから。

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