204 雲の話

「なにボーッとしてるの?」

「つかれたの?」

「そっか、特にボーッとする季節だよね。」

雲を見てる…

「いつものことじゃん」

「雲オタク、っていってなかったっけ?」

曇って三層に分かれているよね。

「曇って三層に分かれてるの?」

ボクが観察している限りは、三層に分かれている。

地上1km辺りからできる下層のモコモコとした雲、

6kmあたりの薄絹のようなひだのできる中層の雲、

それに10kmあたりの霧状の高層の雲、があると思う。

夕暮れの時なんか、

それぞれの層の雲が順番に色づいて重なっている様がとてもきれい。

下層の雲からは時として入道雲が中層を通り越して

上層の雲までたどり着く。

夏の空を飛ぶとたくさんの入道雲の

子どもたちが大きくなろうと待ち構えているのが見える。

中層の薄い雲ときたら、

少しもじっとせずに変化し続けている。

空全体にうろこ雲として広がったかと思ったら、

サーッと消えていく。その縞模様のパターンの美しいこと。

でも、特別なのはそのひだのような

雲に彩雲が訪れるとき。得も言われぬ虹のような、

パールの輝きのような美しい色合いが生まれていて、

生きていてよかったと思う。

高層の雲はあまりはっきりとは見えないけど、

空全体を東西に駆け巡っていることが多くて、

夕暮れあたりには空の端から端にいく筋もの

ピンク色のテープをかけることがある。

これも美しすぎる。

多分、幻日ってこの雲でできるんじゃないか、

って思うけどまだ分んない。

雲が出ていない、天気のいい日に空を飛んでも、

この層が見えるんだ。層の存在がまったく見えなくても、

境目の高さに飛ぶと、とたんに筋が見える。

そしてすぐに消える。

下層の雲の下と上では明らかに空気の色が違っている。

下では、上に比べて遥かに濁りが強くて青みを帯びている。

下層の雲の下が、まるで海のように見える。

空気の海のようで、地上の家々が海の底にあるように感じる。

地上が曇っている日なんか、

下層の雲がまるで白い平原のように広がっている。

空に輝く太陽に照らされて得も言われぬ美しさ。

その下の家々は地底人のすみかのよう。

「楽しそうでよかったね。」

「それで、何考えてるの?」

どうして、三層に分かれるのかってこと

だって、不思議じゃない?

曇って、空気の流れ乱れたところに起きてくるだろう。

「へーっ、そうなんだ。」

大地がお日さまの光で温められて、

その周りの空気が温められ、

高いところに上がっていく。

そうしたら、周りの冷たい空気が下りてくるんだ。
そうして空気の流れが起きるわけだけど、

それだったら、入道雲やその子供、

それに高いところの動かない空気と触れるところの

二種類の雲しか生まれないと思うんだ。

それなのに、どうしてその間の雲が生まれるのかって…

「そんなこと考えてんだ…」

世の中不思議なことが多いよね。

大地と空気とお日さまの光というものだけで、

日々、こんなにも違った複雑な雲がうまれ、

そこに射すお日さまの光で美しく色づいていく。毎日違った美しさ。

飛行機で飛んでいてときどき思うんだ。

飛行機から眺めると、

地上はとても静かにしている。

そして、その周りに、すこし濁りのある層が取り巻いている。

そうすると、地球がまるで胎児のように

羊膜に包まれているようで、

その中で地球が健やかに眠っているって感じ。

守られた中で、すやすや眠っている。

それは気持ちよさそうに。

2012.10.19 井手芳弘

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