「ところで、もう一つの年賀状ってどんなのだったの?」
「ボツになった写真。」
ああ、あれね。
それはこの写真。
凄くない?
「これは、何の写真なの?」
石が積み重なっているような。
高い石の塀があるような?
どこかの遺跡?
「謎かけの写真を選んでた、
っていうからには、この写真にも謎があるはずだよね。でもなさそうだけど…」
これは、円形劇場の写真。
ギリシャにあった劇場で、かなり大きいものだった。
「???」
「円形劇場はどこに?」
円形劇場の周りの円い客席の写真。
「えっ?円形劇場って、真っ直ぐで、立ちあがっているの?」
いやいや、円形している
これは、円形劇場の中心から撮った写真。
ガイドの人が、「劇場の中心に立って音を出すと、
とても音が増幅されるように聞こえるからやってみませんか?」
って言ったんで、やってみようとして、
真ん中に立ってみたら、
周りがこんなに見えたわけ。
細い石積みのように見えるのは通路で、
幅が広く石段も大きいのは客席。
みんな、立ち上がる。
「えっ?分らない!」
「みんな広がっているんでしょ?」
「どうしてそれが、真っ直ぐになるの?」
だよね。だよね。不思議だよね。すごくない?
「まだすごさが分らない…。」
他の場所にいる人には見ることが出来ない。
主人公として円形劇場の円い舞台の真中に立った時、
すべての道は守り神のようにまっすぐ立ちあがる。
そして、その人から発せられた声は広がり、
聞こえなくなるけれど、観客席で跳ね返されて、
立っているその人のところに再び集まってくる。
自分が発した声はいろんな物を通って薄められていくけれど、
再びその人のところに集まる。
すべての道が私の足元から始まる場合。
その道はすべて私に対して垂直に立ちあがるものに変わる。
しかし、本当に真っ直ぐ立つのは、自分が向かおうとする一本の道だけだ。
円形劇場は主人公が特別の体験をする場でもあった。