「つらいなー、そういえば新聞少年って歌あったなー」
「…雨やー 嵐にゃー 慣れ—たーけーど、
やっぱり夜明けは、眠たいーなー。」
めったに早起きすることがないから、
朝方の星空は見慣れない。
不安の中から不思議な夢を見てしまい、
そのことがまだ尾を引いている。
まだ夜の真っ暗闇の中で、
東の山の上に細い月と明るく輝く星。
「あっ あれ、金星だ!」
「ずいぶん前に見たような気がしたけど、またあったんだ!」
月と金星に勇気づけられながら、
星空の下を空港に向けて出発。
「朝早いから、一時間ぐらいで着くかも。」
「明け方を楽しみながら走るとするか。」
「そういえは、6年生のテーマで
夜の闇から朝になるのを体験するっていうのがあったな。」
「月と金星の間隔を手で計っておこうかな。」
「月を支えに金星を昼間に見ることができるかもしれない。」
これまで、何度となくトライしてきてできなかったこと。
「月が見えれば、
同じくらい明るい金星だって見えるはず。」
でも今まで月は見えても、金星を見たことはなかった。
*
飛行機に乗り込む。
いつものように、後方、
進行方向に向かって右側の窓際。
今日もいい天気、というか、
空の上はいつもいい天気。
高度1000mぐらいで最初の空の境界が見える。
下は濃い紫。
「これまで、いろんな発見してきたよね。」
「今日は眠いし、寝ていこう。」
「いや、こんなことじゃいけない!」
自分を奮い立たせて、外を眺める。
「何か新たなものが…」
「それにしても、空の青が濃い」
「考えてみたら、高度1万mぐらいだから、
エベレストの山頂よりも高い所から空を見てるようなものだなぁ。」
「そういえば、昼間に星を見ようと、
ヒマラヤの4500mの高さから空を眺めたけど何にも見えなかったよね。」
「…!」
「ここからだと星見えるかも…」
「でも、月はあっち側だよね。」
そう思いながらリクライニングの椅子を倒して空を眺める。
「あっ、月が!」
窓の一番高いところに引っかかるように、
朝見た細い月が見える。
もちろん、金星は見えない。
手を伸ばして間隔を図ろうとするが、狭くて手が伸ばせない。
仕方なく、目で大体の場所を探す。
もちろん、金星は見えない。
「こんな絶好のチャンスはないのに。
これで見えなかったら、地上から見ることなんてできない。」
諦めかけていた時に、
「あった!」
そこには、小さいけれど、はっきり、くっきりとした白い点
一人でニンマリと笑う。
目をそらすと、再び見えなくなってしまう。
「でも、さっき見つけたのだから。」
としばらく探すと、また見え始めるくっきりとした点。
しばらく見続ける。
「どうして、ああもはっきりとしたものが、
すぐにわからなくなるのだろう?」
そう思いつつ、何度もトライ。
写真には残念ながら写らない。
眠さやきつさは何処へやら