241 金星を見た日
それは、ある金曜日の朝、
「そう金曜日だったんだ!」
朝起きの苦手な私が、
2か月に1度早起きの修業をする日。
東京に向かうために、朝4時半起き
起きられないかもしれない、
という不安と緊張から、夜中に何度も目を覚ます。
鳴る前に目覚ましを止めて、
服を着替え、4時45分出発。
順調。

「つらいなー、そういえば新聞少年って歌あったなー」
「…雨やー 嵐にゃー 慣れ—たーけーど、

やっぱり夜明けは、眠たいーなー。」

 

めったに早起きすることがないから、

朝方の星空は見慣れない。

不安の中から不思議な夢を見てしまい、

そのことがまだ尾を引いている。

 

まだ夜の真っ暗闇の中で、

東の山の上に細い月と明るく輝く星。

「あっ あれ、金星だ!」
「ずいぶん前に見たような気がしたけど、またあったんだ!」

月と金星に勇気づけられながら、

星空の下を空港に向けて出発。

「朝早いから、一時間ぐらいで着くかも。」
「明け方を楽しみながら走るとするか。」

「そういえは、6年生のテーマで

夜の闇から朝になるのを体験するっていうのがあったな。」

「月と金星の間隔を手で計っておこうかな。」

「月を支えに金星を昼間に見ることができるかもしれない。」

これまで、何度となくトライしてきてできなかったこと。
「月が見えれば、

同じくらい明るい金星だって見えるはず。」
でも今まで月は見えても、金星を見たことはなかった。

飛行機に乗り込む。
いつものように、後方、

進行方向に向かって右側の窓際。
今日もいい天気、というか、

空の上はいつもいい天気。

高度1000mぐらいで最初の空の境界が見える。

下は濃い紫。

「これまで、いろんな発見してきたよね。」

「今日は眠いし、寝ていこう。」
「いや、こんなことじゃいけない!」
自分を奮い立たせて、外を眺める。
「何か新たなものが…」
「それにしても、空の青が濃い」

「考えてみたら、高度1万mぐらいだから、

エベレストの山頂よりも高い所から空を見てるようなものだなぁ。」

「そういえば、昼間に星を見ようと、

ヒマラヤの4500mの高さから空を眺めたけど何にも見えなかったよね。」
「…!」
「ここからだと星見えるかも…」
「でも、月はあっち側だよね。」
そう思いながらリクライニングの椅子を倒して空を眺める。

「あっ、月が!」

窓の一番高いところに引っかかるように、

朝見た細い月が見える。

もちろん、金星は見えない。

手を伸ばして間隔を図ろうとするが、狭くて手が伸ばせない。
仕方なく、目で大体の場所を探す。

もちろん、金星は見えない。
「こんな絶好のチャンスはないのに。

これで見えなかったら、地上から見ることなんてできない。」

諦めかけていた時に、
「あった!」

そこには、小さいけれど、はっきり、くっきりとした白い点
一人でニンマリと笑う。

目をそらすと、再び見えなくなってしまう。

「でも、さっき見つけたのだから。」

としばらく探すと、また見え始めるくっきりとした点。

しばらく見続ける。
「どうして、ああもはっきりとしたものが、

すぐにわからなくなるのだろう?」
そう思いつつ、何度もトライ。
写真には残念ながら写らない。

眠さやきつさは何処へやら

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