265 ザーレム研修・3

とにかく、

このように毎日同じことをし続け、

学び続ける、とても集中した日々でした。

このように時間を使った日は、

近年ありませんでした。

しかし、この時間を作っていただいた

ニーダーさんにも感謝です。

というのも、私が行った日は金曜日の夜で、

それから土日を挟み、

次の金曜日から月曜日までは

イースター休みだというのに、

毎日朝7時ぐらいから朝食を取り、

その後仕事をする時間を取ってくれたのです。

それも時として、

夜の9時ぐらいまで。

「ドイツ人ってこんなに仕事をするんだ。」

と改めて驚きました。

もちろん、普通の会社に入っている人は、

そんなには働かないそうです。

もちろん、作業だけをやっていたわけではなく、

ある時はオイリュトミーに参加し、

ある時は、キリスト者共同体の

イースターミサに参加したりもしました。

それに、様々な話題についての

長—い対話。

と言うか、ほとんどニーダーさんが話をしていますが…



ある日の午後、

お日様が出てきたので、

ガラス張りのテラスで、

ケーキを食べながらお茶をしていた時の事です。

もちろんケーキはドイツの代表的なケーキ、

シュバルツヴェルダーキルッシュトルテです。

ニーダーさんは無類のこのケーキファンのようで、

私の分も一緒に買ってきてくれました。

もちろん私も大好きです。

「ところで、ライアの始まりって、

第一ゲーテアヌムの焼け跡の

木の欠片からインスピレーションを受けて生まれたんだってね。」

というと、ニーダーさんは

「それは大きな間違いだよ。」と言われました。

「えっ、だってその話はよく言われている話じゃない?」

「どうして違うって言えるの?」

と切り返すと、

「そのことを示す手記や手紙があるんだ。」

「実際に知っている人は数少なくなっているけどね。」

と言って、ライア誕生の話をしてくれました。

音楽の先生がゾンネンホフという、

スイスのゲーテアヌムの近くの

障害者の施設にやってきたそうです。




そこで、得意のピアノを弾いて聞かせたら

障害者の人たちがみな、

耳をふさいで硬直してしまったそうで、

その人は、障害者の人たちに

問題を見出すのではなく、

彼らに受け入れられる音楽とは何か、

と考え始め、ある時ピアノの弦の張られたフレームを取りだし、

立てて、それを直接指で弾いたらどうだろうか、

ということを思いつかれたようで、

焼け落ちたゲーテアヌムの隣にある

木工作業場にあった古いチターを改造して作ってみたけれど、

なかなかうまくいかず、

楽器職人の方に頼み、

ちゃんと音の出るライアが生まれたそうです。

何台かライアが生まれた後に、

ゲルトナー氏と出会い、

円い形のライアが生まれたそうです。

「とにかく、歴史が正しい形で伝わってほしい。

そのために自分は文章を書くなり、

何かしなければいけない。」と言われていました。

こういう、シュタイナー関係のところでも

いろんな問題が起こっているんだな、

と複雑な思いでもありました。

おっとと、ケーキを食べて

コーヒーばかり飲んでいるわけにはいきません。

ついつい話し込んでしまいました。

作業の続きです。



これは、熱い鉄の塊で

(アイロンのようなもの。アイロンより熱い)

これで薄い板を熱して

型の通りに曲げていきます。

なかなか思うように曲がりません。

でもここで音をあげては日本男児がすたります(なんのこっちゃ)。

とにかく、がんばってま・げ・て・いきます。

ま・げ・て・いきます。

何とか仕上がり、

なかなかいい出来だとほめていただきました。

このあと、

ニーダーさんからは褒められませんでした。

「ニーダーさん、何でもいいから、

もう少し、ほめて育ててよ!」




この後、

接着剤を塗り枠に挟んで、クランプで締めていきます。

「この接着剤は3分間勝負だから。」

とニーダーさん。

時計とにらめっこで作業です。

ピーコ、ピーコ、ピーコ
「もうすぐ3分だぞ!」

ニーダーさんの声が響きます。

ピーコ、ピーコ、ピーコ、
シュワッチ!

* * *

カールを付けて一晩寝かせます。



先ほど接着した枠に

型紙をあて、鉛筆で線を引き、

フレームの形に切っていきます。

その後サンダーで正確に仕上げていきます。

最後に帯鋸でカールを付けた木を入れる溝を作ります。

溝ができると、

そこへ接着剤を塗り、

取り出したカールさんをそこへ入れ、

またクランプで締めていきます。

ピーコ、ピーコ、ピーコ、また胸のタイマーが鳴り始めました。
シュワッチ!

* * *



戦いが済みました。
あとは静けさが漂います。
やはり、話過ぎて作業が進みませんでした。
一体、いつ出来上がるのでしょう?

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