286 水は不思議だ

まだ寒さが続く日々の間に、

ぽっかりと訪れた暖かい晴天の一日。
お日様の恵みに感謝しつつ、

かげろうのようにフラフラと歩く。

春が近づくと水面のとろりとした肌が気になる。
固まったものが、溶けていくからか…

ふと気が付くと、水辺にフラフラ接近している。
ザザー、サラサラ、ポコポコ、水音の交響楽が近づいてくる。
そこは、絶え間なく水が流れる川辺。
水はずっとずっと流れ続けている。

手前は浅くなっていて、
風が吹いてくると、
胸騒ぎのように、
その後を追うかのように、
水面に微細なさざ波がかすめていく。
さざ波が立つ、
消える。
さざ波が立つ、
消える

この浅瀬を歩きたくなる。
長靴を持ってくればよかった。
そこを歩いているカラスがうらやましい。
はだしで歩くには、まだ冷たすぎる。

水は不思議だ。

だって、その単純な水面に

同時にたくさんのものを映しているんだ。

私からは雲が映っているのに、

雲から見ると私が映っている。

その間をかいくぐって、

カラスからは葦の草が映り、

葦の草からはカラスが映っている。

私と雲が映っていることなんかまったくお構いなし。

というか、まったく気が付いていない。

こうやって、歩いていても、水面に見える景色は変わっていく。
立っている場所の数だけ、

空間のそれぞれの点の数だけ、

見えるものの数があるんだ。

それも、どれをとっても、精巧にできている。

お互いに絡み合うことなく、整然と、

それしかないかのように、それだけを見せてくれる。
私たちの住んでいる世界にはとても不思議なものがあるものだ。

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