それは、夏至の前日のこと、
雨交じりの濡れた道に一匹のアオスジアゲハが止まっていた。
「久しぶりにアオスジアゲハ!」
と早速カメラを構えた。

雨の中、足早に通る人が
蝶々に気づかずに、
撮影を邪魔していることを気遣って、
「すみません。」と私の方を振り向いて、
蝶々を踏みそうに…

私は
「ア、ア、ア…」
と言いながら、頭を抱える。
・・・
幸運にも蝶々は無事、
何事もなかったかのように、
羽をパータパタ、
近づいてみても逃げない。

そっと手でつかんでみる。
羽をパータパータ
光を透かして、
青い筋がオレンジ色に見えないか確認。

やはりアオスジアゲハの青も
光に透かしたらオレンジだ!

確認した後、空へ~!

あれ?

指に張り付いて逃げない。

生まれたばっかり?
雨に濡れて飛べない?
年老いてもう力がない?

いずれにせよ、雨の中、周りに蝶を置いていけそうな植物が見つからない。

ネギ坊主、ネギ坊主、
無意識にネギ坊主を探している自分がいる。

そう、子どものころによくネギ坊主にこのアオスジアゲハがやってきていて、
捕りたくても捕まえられなかった記憶が蘇る。

どうする?

指に止まらせたまま車の中へ。

後部座席に下ろすと、行儀よく、パータパタ

なんだか、車の中で雨宿り

何にも話さないけど、
雨宿りで安堵してる感が伝わる。

不思議な温かい気持ちになりながら、
小さなお友達を乗せてドライブ

「草があるところ探そうね。」

「ネギ坊主を見つけるのは難しいと思うけど…」

広い河川敷にたどり着いたときには雨は上がっていた。

「ここらあたりだと大丈夫かな?」

車を停め、蝶を指に乗せ
背の高い葦が青々と茂っているところへと歩いていく。

「少し遠くにやってきたけど大丈夫かな?」
「茂みの中の鳥たちは大丈夫かな?」
「やっぱり、飛んでいかないかな?」

蝶の止まっている指を持ち上げて振ってみる。

飛んだ!

先ほどのおとなしさとは打って変わって、
元気に雨上がりの曇り空へ羽ばたいてく。

側の茂みには目もくれず、
高みを目指し、
雲の背後の夏至の太陽に向かうかのように。

まぶしい中で、
次第に小さく、小さくなっていく。

小さな点になり、

とうとう空に消えた。

夏至の太陽の中に吸い込まれていった。

2024.07.04 井手芳弘

486 夏至の日の出会い」への2件のフィードバック

  1. 蝶🦋のヒッチハイクですね
    すごいなぁ
    井手先生ならではの出会いですね

    1. 井手千代子様
      いつも読んでいただきありがとうございます。
      雨に濡れたお客さんをどこに連れて行こうかと思案した時間でした。
      後ろでじっとしてて、どこに行きたいって言わないので・・・

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